第17話:封印魔法
どうしたのだろう。
いつものようにアレクサンデルが夜に目覚めると、ベッドではなく机に座ってうたた寝していたようだった。
勉強でもしていたのかと机の上を見ると、教科書ではなく、魔法についての本だった。
開いていたページは、封印魔法についてだった。
「封印魔法?」
思わずといった風に、アレクサンデルが眉間に皺を寄せて呟く。当然だろう。
禁忌や違法では無いが、その辺で簡単に掛けて貰えるものでは無い。
それに、やはり副作用的な物があるようで、未来永劫封印……とはいかないようだ。
「何かを封印するつもりなのか?」
すぐに思い付くのは、強力な魔物だ。倒す事が出来ない程の強い魔物は、封印されるのが一般的だ。
次に、犯罪者の能力。
相手を洗脳してしまうような凶悪な、しかし処刑するほどでも無い犯罪者の能力を封印する事がある。
しかし、まだ王太子でしかない僕に、それを決める権限は無い。たとえ3年経っていても、まだ学生の自分にそれ程の重責を負わせるとは思えない。
『封印した弊害で、記憶障害が起きる事がある』
ふと目に入った、本に書いてある文章。なぜか、その一文に目を奪われた。
記憶障害。
まさに今の僕ではないか。
封印された僕が、アレクサンデルだとすると、今、昼間にアレクサンデルとして暮らしているのは誰だ?
トントントン。
寝ていたら気が付かない位の、微かなノック音が部屋に響いた。
今の時間に部屋に訪ねて来る人物の心当たりは、一人しか居ない。
「ロドルフ先生……!」
アレクサンデルは扉へと急いだ。
「先生……」
扉を開けたアレクサンデルは、どこか安心したようにロドルフを迎えた。
「あぁ、良かった。もし昼間の方だったらこれを……アレク?」
言い訳用に持っていた書類を見ていた視線を前に向け、ロドルフは言葉を止めた。
アレクサンデルの顔色が、夜だからという事を抜いても余りにも白く見えたから。
部屋の中へロドルフを招き入れたアレクサンデルは、そのまま机の前まで誘導した。そこには、開いたままになっている本がある。
「僕は、封印されたのでしょうか」
アレクサンデルの視線が床へと下がる。
「私の調べた結果は、いま話しますか? ヴォルテルス公爵令嬢と一緒に聞きますか?」
ロドルフの問いに一瞬考えた後、アレクサンデルは小声で「セシィと」と答えた。
二人は部屋を出て、秘密の通路へと向かう。アレクサンデルの足取りは、いつもと違い、重い。
言いようのない不安に、押し潰されそうだった。
誰が自分を封印しようとしたのか。いや、封印したのか。
自分では無いから、あの純潔の話を知らなかった?
昼間の自分は誰なのか。
それよりも、夜にしか出られない本当の自分は、昼間にも出られるようになるのか。
このままでは、セシリアと婚姻するのは、昼間のアレクサンデルである。
結婚式も、婚姻誓約書への署名も、そして初夜も、全てが昼間のアレクサンデルに奪われてしまう。
他の何よりも、王太子としての地位や、両親と過ごす時間よりも、セシリアとの時間を奪われるのが、アレクサンデルは我慢出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます