第8話:学校での様子




 朝、セシリアは憂鬱な気持ちで学校へ行く準備をする。

 不機嫌な王太子と一緒に登校しなくて良くなったのは大分気が楽になったが、アレクサンデルと同じ見た目で、王太子がスヒッペル伯爵令嬢と仲良くする姿を見るのは嫌だった。


 アレクサンデルは彼女をと呼ぶ。

 同じ人間のはずなのに、片方は傾倒して片方は嫌悪する。

「本当に別人みたい」

 呟いた後に、別人なら良いのに……とセシリアは思った。



 学校に着いて教室へ向かうと、中から淑女らしからぬ声が聞こえてきた。

「やぁだぁもう! どこ触ってんのよぉ」

 鼻にかかったような声は、まるっきり娼婦のようだ。もっとも、セシリアは本物の娼婦を見た事は無いが。

 セシリアが教室の扉を開けようとすると、内側から扉が開いた。


「セシリア様」

 出て来た二人の女子生徒は、セシリアと仲の良いティルザ・ヴァヘナール侯爵令嬢とアレイト・ポストマ伯爵令嬢だった。

 伯爵令嬢とは言っても、筆頭伯爵家の令嬢なのでスヒッペル伯爵令嬢とは格が違う。

「今は入られない方がよろしいかと」

 不快さを隠さずに言うヴァヘナール侯爵令嬢は、セシリアを校内のカフェへ促した。



 食堂とは別に休憩場所としてあるカフェは、職員室の近くにあり、授業が始まる前に教師が声を掛けてくれるので、安心して居られる場所だった。

 他にもちらほらと生徒が居るが、なぜか同じクラスの女子生徒が多い。


「セシリア様は昨日お休みでしたからご存知無いとは思いますが……」

 そう言ってヴァヘナール侯爵令嬢が話し始める。

「入学式の時から王太子殿下にベットリとくっついていたスヒッペル伯爵令嬢ですが、まるで愛人のようにずっと殿下に触れていらっしゃいますの」

 恋人ではなく、愛人らしい。


「先程など、お膝に座られてましたのよ」

 ポストマ伯爵令嬢が呆れを隠さずに、有り得ないと首を左右に振る。

 なるほど、それでは愛人だわ……とセシリアは妙に冷静に受け止めていた。



「セシリア様、どうなさいますの?」

 ヴァヘナール侯爵令嬢が心配そうにセシリアを見る。

 中等学校から続いている王太子からの冷遇を、友人である二人はずっと側で見ていた。

 今までは冷遇だけだったが、今回は立派な不貞行為である。


「婚約解消の申し出を昨日、父が行いましたの」

 セシリアの表情が曇った事で、聞かなくてもその結果がうかがえる。

「高等学校卒業まで待って欲しいと……」

 沈んだ声で告げられた内容に、友人二人は憤慨する。


「卒業したらすぐに婚姻の儀ではありませんか!」

 ポストマ伯爵令嬢が怒りのままに言葉を口にする。

「アレイト様」

 ポストマ伯爵令嬢をたしなめたのは、ヴァヘナール侯爵令嬢だ。しかし、気持ちは一緒らしく言葉を続ける。


「確かに、アレイト様のおっしゃりたい事は解りますわ。卒業式で婚約なさっても、次の婚約者など見付かりませんもの」

 まだ3年近く卒業までは時間がある。

 今ならまだ次の婚約者を探せるが、その頃に残っている貴族令息など、まともな者はほぼ居ないだろう。


「まさかそれを狙って?」

 ポストマ伯爵令嬢が言う。

「アレイト様」

 またヴァヘナール侯爵令嬢に窘めるように名前を呼ばれる。

 いつもと変わらぬ二人の様子に、セシリアが少しだけ口元を緩めた。


「ティルザ様、アレイト様、ありがとうございます」

 本心で心配してくれていると判る二人に、セシリアも心からのお礼を言った。



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