第2話:婚約者のもとへ
王太子、アレクサンデル・ファン・メーフェルは、なぜか記憶を失っていた。
もしかして、部屋の中から存在が消されている婚約者に何かあったのでは、と不安になった。その衝撃に耐えられなくて、記憶が無くなった?
一度思い付くと、それが正解のような気がして、血液がさあぁと下に下りていく。
「セシィに会いに行かなくちゃ」
夜中だというのに、アレクサンデルは着替えて出掛ける準備をした。
当たり前だが、この時間に普通に外出など出来るはずは無い。
アレクサンデルはそっと扉を開けると、扉の前に誰も居ない事を確認して廊下へ出る。
そして少し離れた場所にある図書室へと向かった。
1番奥の棚の、下から2番目の段の左から3番目の本を押すと、右から4番目の本が少しだけ飛び出す。それを押し戻すと、一部の本棚がカチリと音を立てて少し浮き、簡単に動かす事が出来るようになる。
これはいざという時の脱出通路で、ヴォルテルス公爵家の裏庭にある物置小屋に模した出口へと繋がっていた。
幼い頃のアレキサンドルが、セシリアに会いたいからとあまりにも脱走を繰り返し周りを困らせるので、国王と公爵が渋々教えたものだった。
使用する時には、必ず専属護衛騎士の同行を約束されられていた。
当然、今、その護衛騎士は側に居ない。
「緊急事態だから、しょうがない」
アレキサンドルは自分を納得させるために声に出して言うと、一度大きく頷いた。
真っ暗な通路に入り、すぐに光の魔法を使う。自分の少し前に眩しくない程度の明かりが浮かんだ。
「……え?」
目の前の光景に、アレクサンデルは立ち尽くしてしまった。
記憶の中の通路は、掃除とかはされていないが、アレクサンデルと護衛騎士が往復するので、使用されている感はあった。
しかし目の前の通路は、クモの巣や埃などが行く手を阻み、何年も使われていないようだった。
「本当に何があったのだ!?」
手でクモの巣を払いながら、アレクサンデルは歩き出した。
本当は走ってしまいたいのだが、石で出来ている通路は少し滑りやすく、更にそこに埃が積もっているので危険だった。実は緩やかな下り坂にもなっているので、尚更転びやすい。
「着いた」
自然と緩む顔を引き締め、アレクサンデルは階段を登る。
扉を開けると、公爵家のあの小屋だった。
そしてやはりこちら側も、何年も人が通っていないのが判る程度には、埃が積もっている。
小屋から出たアレクサンデルは、我慢出来ずに走り出した。
目指すのは、婚約者の部屋の下。
安全を考えて、公爵家の人間の部屋は上の方にある。
変わっていなければ、セシリアの部屋は3階にあった。
当たり前だが、セシリアの部屋は真っ暗だった。
「寝てるよな。それはそうだ」
窓を見上げながら笑うが、力が抜けた、泣きそうな笑顔になってしまう。
寝てるのか、それとももうあの部屋には居ないのか、それも確認出来ない。
「馬鹿か、僕は……」
視線を落とし、ポツリと呟くと、ゆっくりと
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