王都②


 冒険者組合。古くはかつて勇者が魔物の脅威が今よりも酷かった時代に創設したとされている。勇者は後に王国の重役となり、各国に子孫を輩出することになるが冒険者の理念は魔物の根絶にある。

 現実問題として動物のような生き物も魔物であり、植物さえも魔物に分類されるこの世界でそんなことをすれば間違いなく世界が滅ぶので現状第三者の依頼を受け付ける窓口として、そして冒険者の地位・・を守る役目を担っている。

  冒険者組合は幾つかのギルドに別れており、俺は冒険者組合の従魔ギルドに属している。



 冒険者にはランク付けがあり、登録時の試験によってEからCに分けられ、1番上はSである。ランクによって受けられる依頼の難易度が変わり、S級ともなれば魔王でないにしても強大な魔物と戦う事になる。

 俺は最低のEではあるが、名義上必要なだけでしっかりと名前を言えばS級と同等の権利を得ることも出来る。魔王討伐を成した勇者の仲間ってのは色々と優遇されるのだ。

 ランクはギルド関係なく同じだ。ギルド自体も管理を

 

『なんだ? ニンゲンの冒険者と言っても大したことは無いのだな』

 

 精霊が俺に聞こえるだけの声で話す。

 念話だ。

 

「(王国の冒険者にもS級がいる。そいつらなら上位精霊と渡り合えるかもな)」

『ほう』

 

 S級冒険者、俺が知ってるやつの話でいえば、ゴブリンと融合した俺が苦戦しない程度だろう。但し単体であればの話であり、パーティーを組まれるとオークキングより少し下程度だろうか。

 スキルによる融合の強化具合がおかしいだけで勇者に匹敵すると考えればこの世界では十分過ぎる強者といえる。

 俺個人なら手も足も出ない。


「魔物使いだ。従魔ギルド長に会いに来た」

「っ、魔物使い殿! 少々お待ちください!」


 受け付けに話しかけると、俺の事を知っているの か顔を見るなりすぐさま走り去った。呼ばれたとはいえ事前連絡なしだったので会えなくてもしばらく王都にいる予定だったが助かった。ちなみにそれで会えない場合は遠慮なく俺の名前を使うつもりでもいた。

 精霊がなんか不穏な事を言っていたので早く帰りたいところだ。

 

 しばらく待ってると、先程の受付が戻ってきた。

 

 

「本部長がお待ちです。こちらへどうぞ」

 

 ……ギルド長じゃなくて本部長。

 まぁ、仕方ないか。


 言われた通り別室に案内される。

 組合の中で一際重厚な扉を、受付が挨拶をしてノックすると、「入れ」という声が聞こえてくる。


「俺は従魔ギルドに用があるのだが」

「ハハハ、そうは言ってくれるな戦友よ。久方ぶりの再会を喜ばないか!」


 扉の先にいたのは、暑苦しい声に似つかわしい、筋骨隆々で浅黒い肌をした偉丈夫ーー冒険者組合の統括本部長。

 実質的な王国冒険者組合のトップである。

 ーー

「生憎とそんな感情は持ち合わせていなくてな」

「相も変わらずドライな奴よ。勇者のやつは顔を出しているのか? 今は寄らずの森・・・・・で暮らしているのだろう?」

「来ないだ来たきりだな。それでも多いくらいだが」


 寄らずの森と呼ばれるのは、俺が住んでいる森の名前である。森の最奥には寄っては行けないという伝承から来ている。

 王国冒険者組合本部長ーーこの男はかつての勇者の仲間である。暑苦しいので苦手だから会いたくはなかった。


「ハハハ!  勇者のやつも苦労しておるようだな!」

「苦労しているのは俺だ!  間違えるな!  ……それより、俺は従魔ギルドに寄りに来たのだが」

「あぁ、報告は受けている。上位精霊に関することであろう?  おまえさんからの報告書とあって従魔ギルド長あいつもどうしたらいいかと柄にもなく相談に来たからな」

「大した内容でもないからどうとでもしてくれて良かったがな」

「そうはいかん。お前さんだからというだけでなく、魔物のことを知ることは我々冒険者、ひいては魔物の被害に怯える者たちを救う事になる。魔物の研究など行う者が少ない以上、大事にせねばな。同じくらい、その内容に嘘が含まれていてはならん」

 

 その通りなので何も言わないでおく。


「(姿を現してくれ)」

『ふむ。良いだろう』


 俺の念話に答え、雷の精霊が姿を表す。


「おおっ!  それが上位精霊か!  剣の精霊を見た時も思ったが、それ以上だな!」


 見た目には荘厳な雰囲気ある雷の精霊に、本部長が感嘆の声を漏らす。


「あまり大袈裟な態度を取らないで欲しい。調子に乗る」

『貴様どんどん遠慮がなくなっておるぞ。契約の内容に我を敬う事を追加する事を考えねばならんかもしれ

 』

 

 その時は契約解除してやる。


「精霊と会話できる、か。この目で見ても信じられんな。お前さんほど魔物ーーと精霊を括って良いかもわからんが、詳しいものはいないだろうな」


 俺以外の魔物使いには、魔物と意思の疎通が出来るスキルに目覚めていない者も多いらしい。というより敵対的で会話を放棄したやつ以外と会話出来る俺が異常らしい。


「そういえば精霊といえば今この国に宗教国家より聖女が来訪しているのは知っているか?」

「……あの救国の聖女か?」

「それだ。うちからも護衛としてS級冒険者を派遣しておる。王国の依頼ではあるがな。聖女に万が一があれば戦争になりかねんからな」

『聖女とはなんだ?』

 

 精霊も気になったのか、話に入ってくる。

 救国の聖女・・・・・

 この世界には神が複数いるとされ、禁忌へ踏み込んだ人間を罰する為に魔王を産み出す神もいれば、人間に益を与える神もいるとされている。

 宗教国家はそんな多神教な考えが王国や帝国などの大国で広が ている中、創造の女神こそが唯一にして史上の神であると宣言し、それ以外を邪教扱いしている国である。

 過去に宗教の違いを理由に大国にすら喧嘩をふっかけたことのある恐ろしい部分もあり、小国ながらそれなりの発言力を持つ国でもある。儀式・祈祷という分野においては他国を凌駕しておりそれを理由に大国ですら強気に出れないという理由もある。

 

 その宗教国家に悪魔・・が介入したという事件があった。

 悪魔は魔物の一体であり、その性質は精霊に似通っており邪悪な精霊が悪魔だといえばわかりやすい。

 精霊と違い人間に積極的に介入し、人間を堕落させて生気を貪る。災厄ディザスターと呼ばれる魔物の変種にも似た瘴気を纏っているが巧妙に隠し、人に化ける事も出来る。

 スキルやスキルによらないと魔術にも抵抗があり厄介極まるが、祈祷に対して弱い部分があるのだが、その悪魔がよりにもよって祈祷を得意とする国の中心に潜り込んだのだ。

 

 それを看破、撃破したのが当時13歳の少女であった。類稀なる祈祷の才は神に選ばれた少女であるとされ、宗教国家で1人しか選ばれない聖女に任命されたのだ。

 

 それが約5年前の出来事である事を俺は精霊に伝える。

 

『まるで見てきたように話すのだな』

「(まるでじゃなくてその場に居合わせたからな)」

 

 当時はまだ魔王討伐の途中に立ち寄った際の出来事だ。


『ほう、なるほどな。だからか』

「だから?」

『クク、なんでもない。気にするな』


含んだ笑いをする精霊に、俺は嫌な予感だけを感じていた。

 

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