王都①


 俺の元へ冒険者組合へ来いという手紙が届いた。なんでも上位精霊の報告書に関して真偽が不明であり虚偽の可能性があるというのだ。

 上位精霊が人と関わること自体が稀であり、いわゆる精霊使いと呼ばれる精霊と契約した者はほとんどが下位精霊ーー自我を持たない精霊である。ゆえに精霊に関しては謎が多く、神の使いだと自然が形を取ったものだと思われている。俺は上位精霊である雷の精霊と契約し話を聞いているが、それを信じられないという連中が出るのもまぁ納得出来る話である。

 ただ冒険者組合に行きたくない理由はある。

 無視しても別にいいのだが……。

 

『ほう、ニンゲンの街か。むろん行くだろうな』

 

 暇を持て余した精霊に圧を掛けられる。どっかに行っては帰ってくるを繰り返していたが、運の悪い事に手紙が届いたときに居合わせてしまった。

 あまり放っておいて暴れられても困るので、行かないといけないか・・・。いい加減退屈だっていう感情を送られるのも疲れるしな。

 

「言っておくが街の中では姿は見えない様にしてくれよ」

『無論理解している。ニンゲンは我を畏れているからな。そうあるべきだ』

 

 なんだか自慢げだ。その通りだけどなんかむかつく。

 

「少し遠出する。留守を頼む」

「アイ」

 

 ゴブリンに留守を頼み、俺は王都まで行く準備をする。行商人が立ち寄る村まで行って、そこから馬車と一緒に王都へ向かう予定だ。王国はそれなりに安全が確保された国。騎士や依頼された冒険者が盗賊や付近の魔物を狩るので襲われる可能性も少ないだろう。

 

 

 

 ーーーー

 

「どうしてこうなった」

 

 俺の予定通り付近の村まで一日、そこにいた行商人に金を出して馬車に乗せてもらい、王都まで行くところまでは良かったのだが、馬車に乗って一時間も過ぎた所で囲まれた。

 魔物じゃない。盗賊である。

 

「悪いが荷物は全部貰ってくぜ。ついでにお前たちの命もな!」

 

 ただし行商人の護衛についていた冒険者がグルの盗賊である。

 

『ほぅ。これがニンゲン同士の争いか。なんとも醜いものだな』

「金を渋ったんだろうなぁ。珍しいわけでもないのが悲しいところだ」

「何を一人でごちゃごちゃ言ってんだ! さっさと馬車から降りやがれ!!」

 

 盗賊の一人が俺を馬車から降ろそうとする。ゴブリンだけを連れて来てたとしても、余裕な相手ではある。

 

「頼む」

『我が力を見せてやろう!!』

 

 俺が動かなかったせいで鬱憤でも溜まってたのか、精霊を顕現させると即座に盗賊たちに雷を落とす。

 盗賊たちは言葉の一つもなく全滅、炭だけが地面に残った。

 

『ふん、つまらん』

「お、おぉ旦那!なんなんですかいこれは?!」

 

 生き残っていた商人が、耳を抑えながら俺に尋ねてくる。

 

「俺が契約している精霊だ。次からは金を惜しまずに護衛を頼むんだな」

「精霊様?! 初めてみやした……。まさか高名な冒険者か何かでしたで?!」

『ふふん、精霊様か。分かっておるニンゲンではないか』

 

 様呼ばわりにご機嫌な精霊。俺の雑な扱いにキレてたのかもしれない。仕方ない。普段は毛ほども役に立たないのだから。

 

「気にしないでくれ。それより馬は大丈夫か?」

「へ、へぇ。まぁ逃げてはいませんが、精霊様に怯えてしまってますね。少し落ち着けば大丈夫やと思いやす」

「じゃあ落ち着いたら出発してくれ」

 

 俺の事を聞きたがる商人にそれ以上答えず、俺は目を閉じる。精霊も姿を消した。

 流石に盗賊に上位精霊の相手は出来ずはずもないのだ。彼らはただ運が悪かった。まぁ盗賊に人権がないのもこの世界である。

 

 

 ーーーー

 

 この世界には三つの大国があり、主に人間が暮らす王国、人間以外の種族、獣人族の国である獣王国、獣人や人間、さらに竜人族も領土内に暮らしている帝国がある。その他にも小国が幾つかあり、宗教国家も存在している。魔人の国というのもあるのだが、人類種の敵とされ国として認められていない。各国はそれぞれが勇者ーーの末裔ーーを有しており、帝国には数人勇者がいるという話を聞いた事があるが、帝国に行ったことはないので知らない。

 王国の首都には多数の人間が暮らしており、ここには王国の冒険者組合がある。王国冒険者組合という名前だが、その運営に国は携わっていない。冒険者は戦時中であっても国民の一員として戦力として加えられず、国の有事の際に王国が冒険者に依頼をする事で参加することが出来る。

 

 俺は冒険者に登録している。といっても名前だけで、冒険者としての活動は行っていない。魔王討伐の功績があるので活動は免除されているのだ。冒険者に加入しないと国の重役を押し付けられそうになったので苦渋の決断だった。

 

『これがニンゲンの街か。鬱陶しい程にニンゲンが多いな』

 

 透明になった精霊が、周辺を見渡しながら口にする。今は昼時なので働いているやつが多いが、俺がいた日本と比べては数は少ない。といっても首都なのでよその街と比べれば一番多いだろう。

 そういえば商人が別れる際にお礼をしたいと言ってたな。小さな商店らしいのでお礼の期待は出来なさそうだが。

 

「はしゃいで姿が見えるなんてことはやめてくれよ?」

『我を何だと思ってるんだ。一度貴様とは我の凄さを話し合うべきではないかと思っているぞ』

「だったら少しは大人しくしてくれ」

 

 不満げな感情が伝わってくる。

 

『ん? クク、喜べ特異点』

「は?」

 

 精霊がどこか一点を見つめて笑みをこぼす。

 

『退屈はしなさそうだぞ』

「なんだよ、何があったんだ?」

 

 俺の質問に、精霊は答えなかった。おい何を見たんだよ。

 

 

 

 

 帰りたくなってきた。

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