精霊③
『つまり、邪教とやらがリヴァイアサンを呼び出した、と?』
俺はここで聞いた話を精霊に説明する。
「あぁ、つまり同じ人間って言ってもそいつらと俺たちは敵対関係にある」
『ふんっ、ニンゲンの区別など我々にはつかん、が話は分かった。だがリヴァイアサンはどうするつもりだ?』
「面倒だが俺たちが片をつける。敵対関係とはいえ人間が起こした事だからな」
主にユーナが、だが。ダメだったらアリーザーー勇者も呼ぶ事になるだろうが。
『・・・・・・貴様、魔物使いと言ったな? その魔物とやらには我も含まれるのか?』
「ーーーー試したことは無いが、恐らくは」
『そうか。だったら貴様、我を使ってみろ』
「はあ?」
思わぬ急展開。特異点とやらだと分かった途端に妙に聞き分けが良くなったと思えばなんだいきなり。
『特異点の行き先は我にも気になる。喜べ、上位精霊たる我を使役したものはおらぬ』
「いやいや。めんどーーじゃない畏れ多い」
『今面倒と言おうとしなかったか? 魔王を討ったにしては慎重だな。人間は我らのようなものを使役する者を敬うのではなかったか?』
魔王を討った?
どうしてそれを?
「特異点ってのはなんなんだ?」
『理を外れたモノの事だ』
そんなものを外れた覚えは無い。
「そういえば、そんな事を言われたのは魔王を倒した後だな」
思い出せば、初めて魔王を倒した時は、それ以前もそんな呼ばれはしていない。魔王を倒した後・・・・・・それか?
「もしかして魔王を倒した奴がそう呼ばれるのか?」
『違う。理を曲げ魔王を討ったモノがそうなるのだ』
「理、つまり勇者以外が魔王を倒した時って事か」
勇者が魔王を倒す。それはテンプレでもあるが、この世界の
俺はそれを無視して魔王を倒した。オークキングの言葉を思い返せば、神がどうとか言ってたな。神、つまりルールを決めた側だ。
「特異点になるとどうなるんだ?」
『我が知った事ではない、が。気にはなる。故に我を使役せよと言っているのだ』
つまり神に逆らったやつがどうなるのか特等席で見たいと言うことか。精霊様も趣味が悪い。
だが悪い話じゃない。神が理を破ったやつをどうするにしても、精霊の力は強力だ。ここで拒否する理由もない。
「分かった。契約しよう。対価はどうする」
『ふむ。ひとまずは魔力で良い。貴様にもそれなりにあるようだしな』
魔力は内に宿る
魔物使いってのは魔物と意思の疎通をし、互いに納得しないと契約出来ない。無理やりにするにしても完膚無きまで叩きのめすなりしないといけないが、俺が単体でできるはずも無い。
「ーーーー契約を」
『承諾した』
魔物使いのスキルーー対魔契約が発動し、俺の左腕全体に紋様が走る。魔物との契約が成功すると紋様が現れる。これは容量を示し、ゴブリンとの契約の際は右足の踵までに紋様が現れた。
かつては全身に紋様があったので相当厳つい見た目だった事だろう。魔力を使わなければ見えないのが救いか。
「流石は精霊、腕ひとつとは」
俺が関心していると、精霊から不機嫌そうな感情が伝わってきた。これも契約した際の恩恵というか代償の1つで、魔物の感情を言葉以外にも理解出来る。
契約した魔物が多いとかなり鬱陶しい。
『上位精霊たる我が腕ひとつとは納得出来ん。やり直しを要求する』
「別にやり直しても増えたりはしないぞ」
となんやかんや文句をつける精霊を宥める事には成功した。
「終わった?」
「あぁ、助かったよユーナ」
「ん。褒めるべき」
「はいはい」
無表情ながらの要求に答え、その頭を撫でる。何故かまた精霊から不機嫌な感情が伝わってきた。
なんなんだ全く。
『それで、リヴァイアサンはどうするつもりだ』
「精霊の力が借りれるのなら今すぐにでも消し飛ばすことは可能だ」
『ほう』
俺の言葉に興味深そうにする。
『ではさっさとしろ』
「ユーナ、リヴァイアサンの場所は分かるか?」
「ん、海の底」
『我が与えた手傷を癒してるのだろう。忌々しい』
精霊の恨み言を無視する。
「じゃあやるか」
『どうするつもりなのだ』
「こうするんだよ」
ーーーー人魔一体
ーーーーーーーー雷精魔空
『ぬぉおおお??? なんだこれは』
左腕の紋様が全身に広がり、俺の体が変化する。全身を稲妻が走り雷の精霊と似た姿となった。
「魔物使いのスキルだよ」
『こんな力聞いたことが無い! これが特異点か!
』
外からではなく内から精霊の声が聞こえてくる。俺と融合して意識を保てるのはかなりレアだ。
俺の体が宙に浮く。意識せずとも空を自由に飛ぶ事が出来る。
『それでどうするつもりだ?』
俺は上空の雲近くまで飛び上がる。リヴァイアサンは・・・そこか。
普段は微塵もマナを感じ取ることは出来ないが、今は手に取るように余裕だ。
「ここから消し飛ばす。周囲に被害を出さないようにするから集中するぞ」
『よかろう』
ーーーー人魔一体:状態変化
ーーーーーー雷槍滅刃
右手に雷の精霊の力を集中させる。人魔一体化状態から、魔物の根源より武器を生み出す。それは三又の、雷で象られた槍の形をしていた。
融合によって増した力を集中させた槍は、雷の精霊が扱う力よりも数段強力であり、もし手元が狂えば町ごと消し飛ばしかねない。それを更に集中させる事で三又の槍は変化し、穂先が1つの槍となる。
「おおぉぉぉ!」
それを海底深くにいるリヴァイアサンに向けて投擲する。鋭く風を切る音すら追い越して、雷音を響かせながら槍は海中を突き進み、リヴァイアサンの身体を容易く貫いてその命を奪い取る。
その音速を超えた一撃は衝撃を抑え込み、槍は消滅する。
『素晴らしい。我が苦労したやつを、こうも容易く・・・、これが特異点か』
雷の精霊が落ち着いた事で、分厚い雲が晴れ、リヴァイアサンが消滅して海の水位が下がり始める。
「帰るか」
ーーーーーー
7日が過ぎた。
手続きやら説明やらで時間を食ったが、俺は家に帰ってきた。港町はもう暫く落ち着いかないだろうが、脅威はないのだ。どうにかなるだろう。
雷の精霊は俺に着いてきた。精霊に関して分かっていることは少ないので、ついてくるというのならとことん話を聞かせてもらう事にしよう。
ただ対価の魔力は、ごっそりと持ってかれたので体調が悪くなったのも帰りが遅くなった理由の一つだ。遠慮しろ。
「で、なんだってまたお前がいるんだ」
「ニーナから話を聞いたよ! 君、彼女に膝枕したそうじゃないか! 自慢されたよ! 羨ましいじゃないか!」
何を言ってるんだこいつは。
「勝手に寝てただけだ」
「頭を撫でたって聞いたのはどうなんだい?!」
「ええいめんどくさい! 近寄ってくるな! 帰れ!」
ーーーーーーーー
精霊に関する報告書
精霊は
厳密には人間や肉体を持つ魔物の繁殖と異なり
最上位を光と闇、上位を五大属性と一部、それ以外を下位属性と精霊たちは認識している。
精霊の多くは世界で起こる大半の出来事を些事と考えているが、上位精霊は過去の盟約により世界の崩壊に繋がる事象を阻止する役目が存在する。
王国の港町で起きた雷の精霊による被害はそれが理由である。リヴァイアサンの召喚と、
ーーーー追記:上記の報告書は上位精霊との契約が確認されておらず真偽不明として取り扱う事とする。上記の執筆者は上位精霊の契約者と共に王国冒険者組合まで出向願う。
ーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます