アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット

第1話 アルファの御曹司


 

「十和(トワ)さん… 本当に良いの?」

 年下のアルファの幼馴染おさななじみは、大きな身体を丸めて不安そうにたずねてきた。


「おいおい榛那(ハルナ)! ホテルまで来て、またそれかよ?! いい加減、覚悟を決めろよ!」


「でも、トワさんは? 同じアルファのオレを相手にするなんて… 嫌じゃないの?!」

 キング・サイズのベッドに腰を下ろし、ハルナは両手の長い指を組み合わせ、もじもじとせわしなく動かす。


「これが私の仕事だから… 嫌とか、嫌じゃないとか…? 今はそういう問題ではないだろう? んん? 違うか、ハルナ?!」


「でも、トワさんもオレと同じアルファだし?」


「そのへんは任せなさい!オメガの合成フェロモンを使って、私が上手くオメガを真似まねてやるから… お前が思っているほど、悪い体験にはならないさ…」

 ああ… 面倒だな……? まぁコイツは童貞っぽいし、仕方ないか… 今日は特別に優しくしてやるとしよう。


 こっそりトワはため息をつき、不安げにうつむくハルナの隣りに腰を下ろす。

 自分よりも背の高い、年下の幼馴染の顔をのぞきこみ、トワは穏やかに微笑んだ。


「でも、まさかこんな… 高校の卒業式が終わったとたん、校門前でいきなりトワさんに拉致らちられて、何かと思ったら… セックスしろだなんてさぁ!」


「あきらめろ、ハルナ! これはお前の結婚生活を、順調におくれるようになるための、勉強なんだよ! お前の婚約者も名家のオメガ男性だから、処女童貞の可能性が高いんだよ…? そうなるとだ… 確実にお前が初夜で失敗するのは、目に見えているからな?」


「ううっ… でも、トワさん…」

 年下の幼馴染、鳥羽とばハルナは、アルファを多く輩出する名家、鳥羽家の直系で… トワはその分家筋の出身である。


 子どもの頃から婚約が決まっていたハルナは、相手の婚約者が男性オメガのため、結婚前に男の抱き方を覚える必要があった。


 そこで、経験豊富な先輩アルファのトワが、ハルナに男の抱き方を直接指導して欲しいと、本家の当主から依頼されたのだ。


 下手にオメガを抱かせると、経験の無い未熟なアルファは、そのオメガに溺れる可能性が出て来る。

 そこでオメガを数多く抱いた経験がある、アルファのトワが指導役となったのだ。


「お前、無事に初夜を乗り切る、自信はあるか? 失敗したら、お前はずっと奥さんの顔を見るたびに、“エッチが下手クソなオレでごめんなさい!”  …って気まずい思いを、することになるぞ?」


「そ… それは… 確かに嫌だけど!」


「ハルナは童貞か? んん? 」


「一応… 経験はあるけど?」


「本当か? 正直に言えよ?! 見栄みえとか張るなよ?」


「見栄じゃねぇし! 本当だし!」


「ふぅ~ん… 何人ぐらいとヤッた?」

 何だ、コイツ… 真面目そうな顔して、童貞じゃないのか?! 意外だな……。 


「……1人?」


「何回?」


「………3回かな?」


「かな?!」


「3回目は未遂みすいだったから… その入れなかったし…」


「それじゃあ、実質2回か? それって、童貞と変わらないぞ?」


「////////////…っ!」

 ハルナは顔を真っ赤にそめる。


「男? 女? オメガ? それともベータ? どっちだよ?」


「ベ… ベータの女子、1人だけ… 付き合ってるから」


 思わずトワはホテルの部屋の天井を見ながら、フゥ―――ッ… と長いため息をついた。


「たとえ、ハルナにセックスの経験があって、上手くヤレる自信があったとしても… それがひとりよがりの、自分だけが気持ちい良いセックスかもしれないぞ?」


「んん? 何それ… どういう意味だよ?!」


「だから… 今までハルナの相手をした女は、 名家出身の金持ちの息子を相手にしているから、玉の輿こし狙いで、アン♪アン♪ 気持良いフリしてたかも? …っていう意味だよ! お前を興奮させるために」


「そ… そんなこと… 無いと思うけど?」


「じゃぁ、お前が童貞喪失そうしつした時に、性器アレを入れた瞬間から、相手はアン♪アン♪よがり狂ったりしてなかったか?」


「・・・っ」 

 青ざめるハルナ。どうやら覚えがあるらしい。

 名家の御曹司おんぞうしを狙った、ベータ女子のハニートラップに引っ掛かったようだ。


「気軽にヤラせてくれる相手でも、今すぐ別れろ! ある日突然、子供が出来たと言い出すぞ?」


「…わかった」


 今度こそ素直にトワの忠告を聞き入れるハルナ。

 


「お前の気持ちは分かるよ! だけどお前の将来のために、お前にセックスを仕込むのは私の仕事なんだよ、あきらめて私を抱いてみろ! まぁ、私がお前の好みでは無いから、嫌がる気持ちもわかるが…」

 トワはケラケラ笑う。


「別に、トワさんが嫌とか… オレはそこまで言ってないだろう?!」

 パッ… と顔を上げて、年下の幼馴染はトワをにらんだ。


「良いよ、良いよ、私に気をつかわなくてもさぁ… だけど、お前の婚約者は男のオメガだからな… まぁ… ここは我慢して、私で経験を積むしかないだろう? お前の兄貴も私で経験積んで、上手く結婚してるし?」


「え?! 兄貴もトワさん、抱いたのかよ?! チクショウ―――ッ!!」


「何、悔しがってんの?」


「別… 別に!」


「まぁ、私を抱いたことは周囲の人間には内密にするよう… 私が指導した相手には、毎回頼んでいるから… お前の兄貴は礼儀正しく、私との約束を守ってくれている、みたいだな」


 ふとハルナの兄が、自分を抱いた時のことを思い出して、トワの顔に優しい笑顔が浮かぶ。


 なぜかハルナは顔を赤くしてムッとふくれた。

「////////・・・」


「とにかくお前の場合、もうすぐ結婚式だろう?」


「そうだけど…?」


 ハルナの婚約者は5歳年上の男性オメガで、若く体力があるうちに子供を産んでおきたいという、先方の希望で… ハルナが高校を卒業したらすぐに結婚することになっていた。


「相手のオメガが、本当に初体験なら… お前との初夜が相手にとって、大切な思い出となるのはわかるだろう? そこで挫折ざせつして、子作りするのが憂鬱ゆううつになる男性オメガは結構多いんだ… どうせなら、奥さんを幸せにしてやりたいだろう?」


「わ… わかったよ! 夫婦円満えんまん秘訣ひけつを… トワさんが伝授でんじゅしてくれると、言いたいんだよね?」


「わかれば良い!」


 トワはニヤリと笑い、年下の幼馴染の首に手を回し、グイッ… と引きよせ、唇にキスをした。







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