幕間 恭子の憂悶3

 放課後、恭子は学校から歩いて十五分ほどの病院を訪れた。

 受付に並んでいるとき、恭子ちゃんとおっとりした女性の声に呼びかけられる。

 声のした方へ振り向くと、輝樹の母親がにこやかに立っていた。


「あ、輝樹のお母さん」

「こんにちは恭子ちゃん」

「こんにちは。おばさんは今日も来てたんですね」


 挨拶がてら感心の思いを持ちながら言った。

 輝樹の母は穏やかに微笑む。


「恭子ちゃんの方こそ、毎日来てくれてありがとう」

「毎日って言っても長い時間じゃないですから」


 足繁く病院に通っていることに気恥ずかしさを覚えて、恭子は照れ隠しに謙遜した。


「おばさんなんて毎日来て、それも長い時間いるじゃないですか。それと比べたらあたしなんて来てるだけです」

「今までは休暇を貰っていたから長い時間いられたけど、これからはねぇ」


 恭子の言葉を受けて輝樹の母が残念そうに打ち明けた。

 彼女の口調から落胆を感じ取った恭子は先んじて言う。


「明日から仕事に戻るんですか?」

「お父さんは先に復帰してるし、私もいつまでも休んでるわけにはいかないの」

「そう、ですよね」


 二週間も経っていれば当然だよね。

 進展はなくても時は進むのだ。


 早く戻ってきてよ。輝樹、早那ちゃん――


 恭子は胸の中で二週間も戻ってこない二人に告げた。

 自分一人が何かしたところで帰ってくるわけではないとわかってはいたが、恭子は念じる以外の捌け口を思いつかない。


「それじゃ私は帰るわね。恭子ちゃんもあまり遅くならないように帰るのよ」

「はい。三十分ぐらいしたら帰ります」


 輝樹の母と口約束して受付の前で別れた。

 受付の列が途絶えて恭子の番が巡ってくる。


「二人は幸せなのかな?」


 帰ってこない二人への疑問を呟きながら受付の前まで近寄った。

 慣れてしまった病院での受付を済まして恭子は病室の並ぶ通路へ足を向けた。

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