二章 義妹と幼馴染とボウリングを楽しむ
もう起きてよ、お兄ちゃん!
お兄ちゃん。
お兄ちゃん起きて!
脳みそがミキサーにでも掛けられたような動揺の中で、半ば強制的に目が覚めた。
目が開くと身体を揺らしていた手が離れて唐突に振動が無くなる。
「お兄ちゃん、朝ごはん食べる時間なくなっちゃうよ」
朝の目覚めに聞こえてきたのは不機嫌な声でそう催促する早那の声だった。
ベッドの上で声のした方へ寝返りを打つと、むすっとした顔の早那がベッドの傍から俺を見下ろしていた。
「バイキングの時間は一〇時までだって昨日言ったよね?」
咎めの色を帯びた声音で早那は告げる。
もうそんな時間なのか。
「今、何時だ?」
「九時半過ぎたよ」
「残り三〇分か。流石に起きるわ」
起こしに来た早那の前で二度寝するわけにもいかず、早那に退いてもらって俺はベッドから這い出た。
俺があっさりベッドから出たことに満足したのか、早那は機嫌のよさそうな顔つきになって口を開く。
「昨日は楽しかったね、お兄ちゃん」
「そうだな。早那は遊び疲れてないか?」
昨夜寝る前にベッドサイドに用意しておいた衣服を手に取りながら言葉を交わす。
へへへ、と早那は嬉しそうな笑い声を出す。
「遊び疲れてなんかないよ。今日も一日中遊ぶつもり」
「元気そうでなによりだ」
早那の返事に俺は頬が緩むのをかろうじて抑えた。
来月から俺と同じ高校に進学することになっている早那は、昨年までは受験で忙しく遊ぶ余裕などなかった。
進学が決まり高校生活が始まるまでの期間こそ一切の悩みもなく遊ぶにはもってこいの期間だろう。
「高校生活がスタートすれば友達作りやら部活やらで忙しくなるはずだ。今のうちに思う存分遊んでおけよ」
「だからこうやって私のための家族旅行を計画してくれたお母さんとお父さんにも感謝しないとね」
「そういえば、昨日は一度も母さんと父さんに会わなかったな」
ふと思い出して口に出した。
何言ってるの、と早那は呆れる。
「私たちと会わないように計画立てたのはお兄ちゃんだよ」
「あれ、そうだっけ?」
俺、両親のために何かしたのか?
腕を組んで思い出そうとする俺を見て、早那が仕方なさそうに口を挟む。
「たまには夫婦水入らずの時間を作ってあげよう、って言いだしたのはお兄ちゃんだよ。だから泊る部屋も私たちとは離してあるのに」
俺がそんな粋な計らいをしたのか。
記憶にはないが、早那が言うからには本当なんだろうな。
自分のしたことを覚えていないなんて、寝起きで記憶がぼんやりしてるのか?
「そういえばそうだったな。寝ぼけてるのかな俺」
「寝ぼけてるのなら顔洗って着替えればいいよ。時間もないから」
「そうするよ。早那は先に行っていいぞ、俺もすぐに行く」
寝間着の裾に手を掛けて言外に早那へ部屋から出るよう告げた。
早那はドアまで引き返してから、何か思い出したように俺の方を振り返る。
「二度寝しちゃダメだよ、お兄ちゃん」
きっちり釘を刺してから早那は部屋を出ていった。
早那に起こされると眠気が飛ぶんだよな。
起こされる時の振動を思い返しながら、手早く洗顔と着替えを済ましてホテルのバイキングまで移動した。
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