第2話 ゼネック・ドレッド
「各国共同による宇宙探索船、宇宙開拓新時代を告げる」
計画の進行に従い、メディアは
だが、世間一般と国家上層部の間には、意図的な情報の
ゼネック・ドレッドという人物がいた。元軍人である彼は、ゲノムアーク計画の構想に賛同し、厳しい訓練の果てに、ゲノムアーク八番艦の副艦長の座を獲得するに至った。堅苦しい所もなく、部下からの信頼も厚い、責任感の強い男だった。
ゼネックの知る、広大な宇宙に、新たな生命の揺り籠となる星を捜索するという、ゲノムアーク計画。
一方、上層部が考える、現惑星の崩壊を危惧し、新たな新天地を開拓するというゲノムアーク計画。
各国の最重要人物を除き、ほとんどの人間たちには、プロジェクトの全貌が明らかにされていなかった。加えて、船には一般には公開されていない科学技術も搭載されている。ゼネックたち乗組員さえも、彼らの乗船する船体が、特定の条件下で自動的に破壊されることは知らされていない。彼らはあくまで新たな星の調査の為だと理解していた。
だが、その全てが悪意から作為されたものではない。それには以下の理由がある。
第一に社会秩序の維持。将来的に彼らの母星での暮らしが崩壊すると知ると、現惑星の人間はもちろん、何より調査に赴いた人間たちが、職務を放棄し、
第二に、情報管理面からの戦略。前もって船が破壊されることを知らされていれば、上層部に対して疑惑を抱き、いわんや敵愾心さえ抱きかねない。船体は自動航行に設定されているが、航行中の船体において、乗組員が予期しえない事態を引き起こす可能性もある。
第三に、心理的な保護。乗組員たちに自らが実験体であり、未知の宇宙での開拓任務に従事していることを気付かせるのは、彼らのモチベーションや心理状態に悪影響を及ぼす可能性があった。
以上の理由により、ゲノムアーク艦の乗組員に対しても、プロジェクトの情報は一部秘匿され、計画の全貌は非常に限られた者達の間でのみ共有されていた。
総じて、ゼネックら一般乗組員と、彼ら上層部とは知識差があり、そこには奇妙な温度差が生じていた。
「何だ、何が起こっている?」
ゼネックは、ゲノムアークと同タイプの船が、彼らの星に到来したという情報に触れ、当然の疑問を抱いた。船団の第三陣として、ゼネックが宇宙に漕ぎ出すまで、残り数か月という時期である。ゼネックの心中はとても穏やかなものではいられなかった。
空から来た未確認の船体は、比較的人が少ない土地を選ぶかのようにその地へ向かい、容易に感知されないシステムを用いて、非常に滑らかな様子で着陸した。その後、その船体は細かな数百の部品に別れて
サテライトシステムを独占することにより、国家上層部がそれらの情報を把握していたにも関わらず、それらが一般の者に公開されることは決してなかった。しかし、幸い、ゼネックらプロジェクトに携わる者達の一部は、その件に関する最低限の情報を掴むことが出来た。
上層部はこれの調査をすぐに行おうとはせず、ゼネックら内部から湧き上がる抗議の声も黙殺した。彼らは、調査には非常な危険性が伴い、世界各国の政治的状況の著しい緊張化を避ける為、慎重な姿勢を必要とすると告げるだけで、そこに事態把握への積極的な姿勢を見出だすことは出来なかった。
不審と疑惑を抱いたゼネックは、同じ心情を抱く数人の部下を従え、調査の為、船が降り立った大陸へ向かった。飛行機と車を乗り継ぎ、車にはベース建築の為の資材を積み込んでいる。構成員は危険性と秘密性を考慮して少数とし、科学者のキャスター・オルヴィル、エンジニアのシャハル・クレインなどを主軸とした数人であった。
宇宙船が着陸した大陸は、比較的発展の遅れた地域で、原住民の存在は確認されているが、それほど込み入った調査もなされていない。環境は高温多湿で、野性動物や毒を有する危険生物も多く、繁茂する木々や、水気を含んだ土地の為に平地は少ない。総じて、人間の暮らしには不向きな土地であった。
ゼネックらは細心の注意を交えて作業を開始した。数日分の食糧を運び込んだベースを設け、退路を確保しながら、そこを中心に調査を進める。始めの内は大きな進展もなく、宇宙船が着陸したとされる場所をピンポイントで調べても、特に目立ったものは見つからなかった。
慣れない環境に悪戦苦闘しながらも、彼らは次第に調査範囲を拡大させていった。やがて、科学者のキャスターが一つの発見を
「やはりこれもだ。付近の植生は、僅かに古いデータしかないとはいえ、私たちにとって十分な調査がなされたものだった。だが、これはどういうことだ」
数十年前、ゲノムアーク計画の正式なスタートを受けて、一部の動植物のゲノムが改めて調査されることとなった。そこから現在まで、期間が空くにせよ十数年間のことだ。しかし、付近の環境から、その期間では説明が出来ない程の遺伝子構造の変異が確認されたのだ。
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