第07話 魔女は街を見る


     5.


 この日、鳩原はすぐに眠りについた。

 夕食はホテルのビュッフェをいただいて(このときに初対面のふたりにダンウィッチを紹介した)、同じ年代のピーナッツバターと、年下のアワーバックのふたりと少しばかり距離を感じつつも会話をした。

 解散をしてから部屋に戻って、シャワーを浴びた。

 髪を乾かしてベッドに寝転がって、『そういえば、結局、ヴィクター准教授は合流しなかったな――』なんて考えているあいだに眠りについていた。

 どんな日でも日付が変わるくらいまで起きている鳩原だが、この日ばかりは長時間の移動と慣れない土地の空気に疲れていた。それは鳩原だけではなく、ほかも同じだった。オリオン・サイダーも、フォックス・ピーナッツバターも、ライン・アワーバックも同じだった――くたくたに疲れ果てて眠りについていた。

 ただひとり――ダンウィッチ・ダンバースを除いて。

「…………」

 ダンウィッチはベランダに出ていた。

 夜になって降り始めた雨が街灯りに反射している。

 この街は人が眠りについても生きている。

 街の輝きは失われず、電気が街を明るく輝かせている。もし、鳩原が起きていて、この光景を見ていたら『水面に打ち上げ花火が映っているみたいだ』と思っていたかもしれない。

 ただ、ダンウィッチの感想は別だった。

 彼女が抱いた感想は、粉塵ふんじん灰塵かいじんと爆炎で曇った大気中で輝く爆発の光である。

 ダンウィッチはこの地域の文明の発展具合に驚いていた。

 ダンウィッチのいた世界には魔法は存在しなかった――存在していた過去はあるのかもしれないが、少なくとも、とっくの昔に廃れて、科学が発展した世界だった。

 でも、こんなふうに街灯りを照らすような光景ではない。

 その多くが戦争のために発展して消耗されていて、真夜中は身を潜めてやり過ごす。

 科学がいろどる平和な景色に圧倒されながら、とも考えた。

 そんな街並みを、しばらくベランダから眺めていた。




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