第27話 10月31日(3)


     3.


 そして、同じ頃。

 生徒会側の警戒はより厳格なものだった。

 警戒しているのは、魔女の動向だった。ダンウィッチの行動は午前中から監視されていた。不可解な行動を取らないかどうか。


 不審な行動があったとき、すぐに対応できるように準備もしていた。

 もしも、生徒会とオリオンの仲がよくて、連携ができるような関係性であったならば、間違いなく図書館にも配備していた。

 だけど、図書館の地下に這入り込もうとしていたことはオリオンしか知らない。


 ダンウィッチの監視。

 午前中はひとりで行動していたダンウィッチが、お昼頃に鳩原と合流し、それからしばらく行動をしていた。そののちにまた別行動を取り始めた。


 そんなふうに一部始終を監視していた。

 。それはそんなにびったりと張りついてしていたわけではなかった。


 それに午前から午後にかけて監視しているといっても、変化のないものを見ていれば怠慢たいまんにもなるし、中等部や町からきた一般人がたまに起こすトラブルの対応にも追われていたので、ちゃんとした監視であったかどうか、それは定かではない。


 とはいえ、ダンウィッチの目立つ格好をしている。

 それを監視し、見逃さないようにしていた――はずだった。



 午後四時三十七分。日没のときだった。

 生徒会内で用いられている連絡用魔法で混乱が起きた。

 同時に複数個所でダンウィッチの監視に関する報告が入り乱れた。


 それぞれがダンウィッチに近づいたとき、それらはダンウィッチではなく、『ドロップアウト』の生徒が扮装ふんそう――仮装した姿だったというものだった。

 魔女の姿に仮装していた。



 真っ赤な空は、深い紺青こんじょうに落ちていく。

(どこかで入れ替わったんだ……?)

 競技の挨拶の関係で、グラウンドの裏側に控えていた生徒会長のウッドロイは思案していた。


 生徒会が監視していた範囲でわかっていることは、ダンウィッチは学校内の誰とでもコミュニケーションを取っていた。

 目立つ格好をした彼女に面白がって声をかける生徒が多かった。


 そこでのコミュニケーションに軋轢あつれきは生じることなく、多くの生徒が好意的な印象を抱いていた。

 最初のうちはこれらのことがあったので、生徒会は『鳩原那覇』と『ダンウィッチ・ダンバース』につながりがあることに気づくのが遅れた。


 それは鳩原も誰とでもコミュニケーションを取っている人物で友好関係が広かったというのもある。

 ウッドロイは『鳩原那覇』と『ダンウィッチ・ダンバース』につながりがあることを看破していた。


 根拠があったというよりは、あらゆることの積み重ねだった。

『そうなんだろうな』を積み重ねてきて、確証はないまま、確信していた。

 ハウスが侵入者騒動の出来事を黙り続けている以上は、決定的なものにはならなかったが、ウッドロイはウッドロイで、『副会長は何か隠し事をしているな』と気づいていた。


 別に暴く必要はない。

 確証はなくとも、確信しているのだから。



「会長! 鳩原那覇を見失ったとの報告です!」

 ウッドロイの元に駆けつけてきた生徒からそう報告があった。


 お酒を飲んだ生徒同士で掴み合いの喧嘩が始まり、そちらに駆けつけて対応をしているうちに監視していた鳩原を見失ったとのことだった。

(これは……これは……)


 ウッドロイは密かに確信する。

 生徒が騒ぎを起こすのは……まあ、こういうお祭りごとでは仕方がないと思っているので、まあ、いいとして……。

 この『ドロップアウト』の生徒が魔女衣装に扮した事態は偶然ではない。


(『ドロップアウト』側との連携している)

 となると、どうするべきか。


 鳩原を見失った際に起きた生徒同士の掴み合いの喧嘩というのも、『ドロップアウト』側が用意したものの可能性がある。


 ここは大事な局面だ。


「霞ヶ丘ゆかりの所在地は?」

「現在、カフェテリアに三人でいます!」

「これから向かう」


 既に鳩原とダンウィッチには先手を打たれている。今から動いても後手に回ることになる。そちらの捜索は続行させて、対応させる。現状でまだ『動いていない』のは『ドロップアウト』側である。


 そちらには先手を打てる。

 ウッドロイがグランドにある生徒会のテントから出たときだった。


 空気を引き裂く音が聞こえた。


 それはグラウンドの反対側から飛び立った。

 オリオン・サイダー。

 薄暗くても、ウッドロイにはその箒に乗る人物がしっかりと見えていた。


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