第74話
大勢の死者と共に音のしない洞穴をくぐると、そこは意外にも明るかった。人魂が洞穴の天井に所狭しと浮かんでいたからだ。
「あ、そこ大きな石があるから足元に気をつけて」
「はい。こんなに明るいのに気づきませんでした」
洞穴は、外と同じく下りの坂道になっていて、先に進むと、段々と坂が急になってきた。両脇を音もなく歩いて行く死者たちも、殊の外歩く速度が速くなって来る。
俺も音星も半ば早歩きで、下り坂を降りていくと、広い空間にでた。
「あれ? ここは? また坂道だ」
「ええ、それにしても、とても広いところですね」
俺たちは、そこで坂道を進んでいくと遥か向こう側に、巨大な扉がそびえ立っているのを見つけた。
その扉の両側には、恐ろしい形相の大きな鬼の銅像が二つ置かれてあった。
鬼の銅像は、どうやら右が青い色の身体をしていて、左は赤い色の身体をしていた。扉よりも大きな二つの鬼の銅像は、両腕を上げ、扉を通って行く大勢の死者たちに向かって、威嚇しているような何かに怒っているような姿勢をしていた。
俺は扉へと、妹を探しながら慎重に歩いて行った。
終始。絶え間ない死者たちの群れに混じって、弥生がどこかにいるはずだと俺は目を皿のようにしていた。
だけど結局、弥生は見つからずじまいだった。
とうとう、俺たちは大勢の死者たちに混じって扉をくぐってしまった。中は真っ暗闇だった。鬼か獣かの咆哮が周囲に木霊している。今更だけど、もう戻れないし、やっぱり生身で地獄にいるのは、とても怖いや。
俺は音星の手を強く握った。
「音星。さあ、先へ行こう……う?!」
「はい……あら?」
突然、地面が抜けて、いや、最初から地面なんてなかったんだ。
俺と音星は大勢の死者たちと共に、遥か遠くの真っ赤な地面へと吸い込まれるように落ちていった。
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