第65話

「やったな! ざまあみろ! なあ、兄貴!」

「ああ! でも、早めにここから逃げた方がいいな……ほら、騒ぎに気がついた獄卒たちが集まってきている」

「……そうだな……あのな……兄貴……オレは広部 康介っていうとある組織のリーダーに長い間。脅迫されていたんだ」


 辺りから無数の裸足の足音がしてきた。

 獄卒が広部の方へと歩く音だった。


「その広部ってやつが、さっきの黒のサングラスの男だったんだな。それであんなことを?」

「あ、ああ。生きていた時で、最後に覚えていたことっていったら、都内の高級バーで強引に酒を勧められていたことと、それから憂さ晴らしに酔っぱらって車ころがして、それから……とある組織の幹部の車に突っ込んだことだけだ」     

「え? ……幹部?」

「そうだけど?」

「ひょっとして、弥生は普通の自動車との正面衝突をしたんじゃなくて、幹部を狙って事故を起こしたのか?」

「ああ……多分な……ワリい……オレ記憶があやふやで……」

「ああ、そうだよな」


 一人の大きな体躯の獄卒が近くを横切った。

 それから、立ち止まって、こちらをじっと見つめている。

 俺は何やら不穏な空気を察知した。


 獄卒が弥生目掛けて、手に持つ金棒を振り上げた。


「あ!」

「……!」


 俺は咄嗟に弥生を脇へ引っ張り、そのまま走り出した。

 周囲の悲鳴や呵責の大絶叫の声が耳をつんざく中で、大叫喚地獄の真っ赤な大地を滅茶苦茶に走りに走る。


 灰色の空から、また大勢の罪人が降ってきた。

 地面に体を激突したものから、獄卒の無情の金棒によって、粉砕されていく。


 裸の罪人の肉体がただの血袋と化して、それが破裂して半透明な人型の魂になっても、獄卒の地獄の責めは尚も続いた。


「ぜえっ! ぜえっ! そうだ! 音星はいないけど、仕方ないから閻魔庁の場所を探そうよ!」

「え? あの巫女さんがいないのに……いいのか?」

「ああ、多分な! 音星なら機転が利くから閻魔庁へと一人でも来てくれるはずだよ!」

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