第60話

 だけど、お医者さんの話では、もう少し寝ていた方がいいということだった。そう言われると、まだ具合が悪かったので、渋々横になった。


 やっと起き上がって普通に走れるようになる頃には、音星の話では、あれから二晩も経っていたようだ。


 さすがに、マズいぞ。


 時差がある地獄でも時が進んでしまったはずだ。


 そんな朝。


 俺は早めに地獄へ行こうと、キッチンで急いで朝食を摂っていると、いつの間にか食卓に椅子一つ増えていることに気がついた。そこへ女の人が座った。


「あ、あれ?」


 俺はその女の人が音星かと一瞬思ったけど、顔を上げて見ると、どうも違う。顔も背格好も全然違っていた。背が高くて、切れ長の目と紫色の薄い口紅が印象的なお姉さんだった。


「あ、おはよ。霧木さん」

「おはようさん」

「ええ、おはようさん……私、この席でいいのよね。もう一つ空いてる席があるんだけど」


「ああ。霧木さんはそこでいいぞ。もう一人のお客さんは、巫女さんやってて、朝は凄く弱いんだよ。だから、いつも遅れてくるから。ところで、ぼうず。この人は霧木さんっていう。うちの新しいお客さんだ。なんでも、女の一人旅をしていて、バイクに乗って日本中を旅行しているんだってよ。どうだい。カッコイイだろう?」

「お、おう」


 霧木さんといわれたお姉さんは、気だるげにおじさんとおばさんに挨拶をしてから。谷柿さんと古葉さんと話している。二人は依然にでも出会っていると見えて、普通に話していた。 

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