第50話

「兄貴……?」

「や……弥生か?」


 弥生の声がした。

 昔の優しかった頃の弥生の声だ。


「なんで、こんなところに?」

「お前が心配だからだ……」


 倒れている俺の頬に何かが触れた。

 背中には、直に真っ赤な高熱の地面が当たっている。熱さで火傷をしそうだった。


 俺はゆっくりと目を開ける。

 自然に優しく微笑んでいた。

 

 頬に触れているのは、弥生の手だった。

 目の前には、妹の弥生がいた。

 

「兄貴……」

「お、おう」


 弥生が何か言おうといしたので、俺はなんとか立ち上がろうとしたら、音星の耳をつんざくような声が聞こえた。


「火端さん!」


 音星の方を見ると、音星はシロと共にこちらへ走っているところだった。が、あらぬ方向を指差している。


 そう。上だ。

 音星が上を指差している。

 

 途端に、辺りの火のついた釜土の中から悲鳴が聞こえてきた。そういえば、ここは叫喚地獄だった。大量の煮え湯が空の方から、周囲の釜土に降り注いでいきた。


 焼け焦げる音と、嫌な臭いが充満し、俺の鼻が曲がる。

 煮え湯が釜土から溢れて、そのまま地面にまで流れだした。

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