第28話
地面の溶岩からは火柱を上げるようになった。真っ赤に焼けたドロドロに溶解された岩や小石が足元のすぐそばまで迫ってきていた。俺の身体は炎には触れてもいないのに凄まじい汗を掻いていた。近くの地面をゆっくりと流れていく溶岩から炎が舞い上がり、俺の肌という肌から汗の滴が噴き出した。もはや、息もできなくなった。
もう無理だ!
そう思って、徐々に地面が狭くなってくる岩山の間から、一か八かその穴へと飛び込むことにした。
だいたい1メートル!
なんとか音星でも飛び込める距離だろう。
「わかった! 音星! ここはもう駄目だ! あの穴へ一緒に飛び込もう! せいの! で、飛び込むぞ!」
「はい!!」
「せいの!!」
「せいの!!」
俺は、穴へ向かって勢いよくジャンプした。なんとか溶岩の川を飛び込えて、真っ暗な穴へ吸い込まれるように落ちていった。無事に地面にストンッと、足が着いた。後ろを見ると、音星も後から続いて、無事にジャンプしたようだった。
中は、やはりとても暗かった。一瞬、バランスを崩した。けれど、光点のそこらを浮いている人魂によって、ぼんやりと視界が開けてきた。天井を見ると、依然として真っ暗だったが、地表には無数の鍾乳石ができていた。どうやら、ここは鍾乳洞のようだ。
「火端さん! あ、あぶっ!! ……あぶない!」
「って! う、うわわっ!」
俺の後ろから音星の悲鳴が聞こえたので、即座に振り向くと、そこには……。音星の草履を履いた足があった。グキッと派手な音がした。一足遅れて洞窟へと飛び込んできた音星の……両足キックが俺のおでこにぶち当たったのだ。
直撃を受けた俺は額を抑えて地面を転げ回った……。
「うっ!! 痛ってーーー!!」
…………
俺は意識を少し失っていたようだ。
ここは、どこだ……?
おでこに、鈍い痛みが走る……。
「あ、痛ててててて……うん?」
あ、そうだ。俺は、音星の両足キックをおでこにもろに受けたんだった。どうやら、仰向けに倒れていたようだな。目を開けて辺りを見回すと、おでこにピンク色のハンカチが置いてあることに気が付いた。
「あ、火端さん! 良かった目を覚ました! 大丈夫ですか? 本当にすみませんでした!」
音星の幼さが残る綺麗な顔が俺の顔を覗いていた。
「あ、ああ。大丈夫だ。それより、溶岩は? 妖怪は?」
「え? ええ……。どちらもまだここへは来ていませんね。今のところは安全のようですよ」
俺はむくりと起き上がった。リュックサックを背負い直してから、辺りを見回すと、着地したところから、数メートル離れた場所で倒れていただけだった。そんなに転げ回っていない。
この洞窟には、不思議と溶岩も妖怪もまだ来ていない。
「あ、あの! 火端さん! 本当にすみません!」
「いや、もういいよ。……さあ、行こう!」
頭を下げる音星を連れて、俺は鍾乳洞の奥へと歩いて行った。真っ暗な洞窟だが、至る所に人魂の明かりがあった。それと、音星は布袋から提灯を取り出して辺りを照らしている。
「ああ、火端さん。こういうお話を聞いたことはないですか? 地獄って、もっとも転生がしやすいところでもあるんですよ」
「ああ、知っているさ。地獄は、人間が輪廻転生する場所で、もっとも苦しい場所だからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます