物語全体が軽妙な会話劇で構成されており、テンポよく進むやり取りで引き込まれます。
失恋によって心を閉ざし、「もう誰も信じたくない」といった極端な思考に陥る彼の姿は、誰しもが一度は経験したであろう「心の痛み」を思い起こさせます。それに対し、みずほの存在は温かく、優しさに満ちています。彼女の世話好きで明るい性格が、衣彦のひねくれた態度を絶妙に中和しており、二人の関係性が心地よいバランスで描かれています。
全体を通して、シリアスなテーマでありながらもユーモアにあふれた文章が魅力的で、登場人物たちの人間臭さが共感を呼びます。恋愛、友情、自己評価といった要素が巧みに織り込まれた、温かくも切ない青春の一コマを描いた秀作です。