第2話 始動、ハニカム計画⑧
改札口を出ると、目の前にはアパレルブランドの大きな看板が広がり、その下ではガードレールに腰掛ける若者たちが電柱に止まるカラスみたいにズラリと横並びになっていた。その横を通り過ぎれば、今度は窮屈な人混みが待ち構えている。服装はみんなオーバーサイズのパステルカラー、もしくはモノトーン。どいつもこいつもスマホを見ながらのろのろ歩いているのでそれを避けて歩かなければならないのが非常に煩わしい。平日にも関わらずこういった視野の狭い若年層が多いのは俺たちと同じく入学式前の若い学生が多いからか、大半は俺たちと同年代や小中学生ばかりだった。
「すごい人だねー! 軽井沢のアウトレットより人いるよー!」
「私も……こんなに人がいるところに来たの、お祭り以来かも……」
先陣を切って前を歩く先輩と小早川は、辺りをきょろきょろ見回しながら感嘆の声を上げていた。新潟から上京してきたばかりの小早川はさておき、長野出身の優希先輩は原宿に来たのは初めてだったようだ。今朝の着せ替えごっこの成果か、二人ともこの若者カルチャー最先端の街に遜色(そんしょく)ないほど溶け込んでおり、懸念していた小早川の素顔もマスクをするだけで周囲に気付かれることはなかった。
「みんな、迷子にならないようにね~」
「みずほ姉ちゃん、発言がもうお母さんだね」
「特に衣彦」
「俺⁉」
「だって、衣彦は自分で言うほどしっかりしてないときあるもん。知らない人に声かけられたら何でも言うこと聞いちゃいそう」
「あのさぁ、俺だってもう高校生だよ? 見ず知らずの他人をそんな簡単に信用するわけないだろ」
「そうかな~?」
「そうですぅ~、俺はもう立派なアダルトダンディですぅ~」
「……ふっふふ、あはは」
俺たちのふざけた会話を横で聞いていた潤花が、堪え切れないといった様子で笑った。
「なんだよ」
「ううん。衣彦、みーちゃんと二人でいるときが一番楽しそうだなと思って」
「えぇ⁉ そう? そんな……そんなことないよねぇ⁉」
「そうだぞ。こう見えて俺とみずほ姉ちゃんめちゃくちゃ仲悪いし、この人怒ったらビール瓶で俺の頭かち割ろうとするからな」
「そんなこと一度もないよ! もー! 衣彦は恥ずかしくなったらすぐそうやって嘘つくんだから!」
「はぁ⁉ 恥ずかしくなんてねーし!」
「ほらー! やっぱり楽しそうじゃん!」
「身内なんだから別に普通だろ!」
「ねーみんなー! 早くー!」
気が付くと優希先輩と小早川はかなり先の方にいた。
人込みの中、大きな声でぶんぶんと手を振る先輩の姿は無邪気で可愛らしいが、元気な小学生と言われても誰も疑わなさそうだ。
「今行くー!」
姉の呼び声に晴れやかな返事で答えた潤花は俺たちの方を向いて「行こ」と催促した。何故か嬉しそうだ。
「三人とも、楽しそうだね」
「みずほ姉ちゃんは?」
俺がそう尋ねると、みずほ姉ちゃんは手に持っていたスマホをおもむろに頭上に掲げた。
ちょうど、インカメにみずほ姉ちゃんと俺が収まる画角だった。
──カシャ。
「私が一番楽しんでるよ」
みずほ姉ちゃんは撮った写真を俺に見せながら微笑んだ。
スマホの画面にはにっこりと笑うみずほ姉ちゃんと、相変わらず無愛想な表情でべーっと舌先を出す俺が映っていた。
「誘ってくれてありがとね」
「……みずほ姉ちゃん、俺にできることあったら何でも言ってね」
「え? どうしたの急に」
「いや、みずほ姉ちゃんいつも頑張ってるから……」
俺には、神様から与えられた特別なものなんて何もない。
だからせめて、幸せになるべき人の幸せを守ることが、俺の使命のような気がするのだ。
それが、おばさんとの約束でもある。
「俺がみずほ姉ちゃんを、幸せにしたいなと思って」
「きっ……! ちょ……!」
気が付くとみずほ姉ちゃんの挙動がおかしかった。
耳まで顔を真っ赤にして、口元をふにゃふにゃに歪ませながら両手を宙にバタバタと泳がせている。
なんだ? 真面目な話をしているんだが。
「う、嬉しいけど、あんまり女の子に勘違いさせるようなこと、言っちゃダメなんだからねっ!」
「みずほ姉ちゃん以外に言うわけないじゃん」
「んもー! そういうところ!」
「何⁉」
みずほ姉ちゃんは満面の笑みを浮かべながら肩でポスンと体当たりしてきた。
とりあえず嬉しそうな雰囲気は伝わるが、責められる理由がわからなければ、体当たりされる理由もわからない。みずほ姉ちゃんはそれきり俺の問いかけに答えることなく、そのまま前方にいる小早川と美珠姉妹のところまで早足で向かった。
前の方ではまだ渋滞しているのか、俺たちはすぐに三人に追いついた。
「真由、途中で気になるお店があったら気遣わないで言ってね。私、真由の気になるお店が気になるから」
「うん……みずほちゃん、ありがとう」
「一応言っておくけど、みんなあんまり目立つことはするなよ。小早川の事情もあるんだ。知らないやつに声をかけられても相手にしたら──」
「潤花! 前見えない! 肩車して!」
「も~、パンツ見えても知らないよ~?」
「言ってるそばからあんたらはさぁ! なんばしょっとね⁉」
「だって~、その方がお店見つけやすいんだもん」
「スマホで調べたらすぐわかるでしょうに! もっと向こう側ですよ! ほら、降りた降りた! 妹も姉を甘やかすな!」
「ちぇ~。古賀くんはわかってないね。筋書き通りの台本よりも、道筋知らずの大冒険。旅先で思わぬ発見があるから人生は面白いんだよ」
「まったく合理的じゃないですね。人生はカーナビですよ。寄り道の時間がもったいない」
「人生はカーナビ……! 名言……!」
「そうかなぁ?」
意見が対立する俺と先輩の間で、小早川が俺に尊敬の眼差しを向けながら小さな拍手を送り、みずほ姉ちゃんは苦笑いを浮かべた。その横でしゃがんでいた潤花が立ち上がり、通りの一角を見て何かに気付いたように指をさした。
「見てお姉ちゃん。あそこの路地、ドラマで壁ドンしてたシーンのところじゃない?」
「ほんとだー! 聖地巡礼しよ! 聖地巡礼!」
先の通りにある路地にはすでに四人の先客がいたが、ちょうど記念撮影を終えたところらしく、俺たちの気配に気付いてすぐにその場を離れた。
先輩はそんな先客の気遣いもお構いなしにパタパタと軽快な駆け足でその現場に向かい、おもむろに建物の壁に自分の手を押し付けた。
「こうやってしてたよね! こうやって!」
「あっはははは! お姉ちゃん! それどう見ても斜めに倒れそうになってる人!」
「そんなことないよ! 真由ちゃんこっち来て! ほら! 真由ちゃんに立ってもらったらそれっぽいでしょ⁉ どう⁉」
「ゆ、優希ちゃん、足震えてるけど大丈夫?」
「あはははは! 優希、そのまま背伸びがんばって! 私写真撮るから!」
目立つなっつってんのにこいつらはよぉ……!
周りも先輩たちがドラマの真似事をしていることに気付いたらしく、先輩が目いっぱい背伸びをした不格好な壁ドンを見てくすくすと笑い声を漏らしていた。
あまりのはしゃぎっぷりに苛立ちを思いつつも、周りも気にせず無邪気にはしゃぐ四人を見て水を差すような注意もできず、歯がゆい心境だった。
「……ん?」
そんな中で、足を止めて妙な行動をしている二人組を見つける。
俺たちより何歳か年上くらいの長髪の男とツーブロックの男が、小早川の方をチラチラ見ながら何やら興奮気味に小声で話している。二人の手にはそれぞれスマホが握られており、カメラの向きは明らかに小早川のいる位置に向いていた。
……さっそくかよ。
俺は先輩と小早川の撮影会で盛り上がる女子たちに気付かれないようそっとその場を離れ、人込みをかき分けながらそいつらのところまで近付いた。
「すいません、撮るのやめてもらっていいっすか?」
ギリギリまで近付いて声をかけたところで、二人はようやく俺の存在に気付いた。
自分たちの方がよっぽど怪しい行動をしているのに、不審者を見るような視線を向けられた。
「は? 何お前」
長髪の男が強気な口調で返す。
年下と見て舐めてかかっているらしく、こっちが下手に出たら露骨に見下した態度だった。むかついた。
「別に何でもいいだろ。勝手に撮った写真消せよ」
頭に来たので語気を強めて言うと相手は一瞬ぎょっとした顔をして、すぐに眉間に皺を寄せた。
俺と長髪は至近距離でにらみ合う。
相手も目を逸らさない。
「なぁ、行こうぜ。めんどくせぇ」
にらみ合うこと数秒、俺たちの後ろにいた仲間のツーブロックが顔をしかめながら長髪を制止した。俺たちが立ち止まっているせいで、行きかう人々も迷惑そうにこちらを見ているせいだ。
「……チッ、うぜぇ」
長髪の男は思っていたよりあっさり引き下がったが、去り際に中指を立ててきた。
俺も親指を下に向けてそれに応える。
どうせこばゆと小早川を見間違えて写真に収めようとしたんだろうが、どうしてああいう輩は有名人のプライベートの写真を撮りたがるんだろうか。普段人から注目されない自己顕示欲の不満をその写真を見せびらかすことで満たそうとしているのか。バカバカしい。
「衣彦? どうしたの?」
振り返ると、みずほ姉ちゃんが表情を曇らせながら歩み寄って来た。
まずい、一触即発の状況だったなんて言えない。
俺は第三者の存在を匂わせないように咄嗟に平静を取り繕った。
「いや、カラスがいたから追い払っただけ」
「? カラスなんていた?」
「まぁ、いたんだ。飛んで行ったけど」
「ここカラスが好きそうな生ゴミとか多そうだもんね~」
「…………」
小早川は先ほどの二人組の様子に気付いていたらしい。能天気に空を仰ぐ優希先輩の隣で、男達の立ち去った方向に視線を向けてから、申し訳なさそうな表情で俺に視線を向けていた。
それと、もう一人。
「…………」
みずほ姉ちゃんの数歩後ろにいる潤花と目が合う。
──何かあったの?
そう言いたげな視線には、かすかに怒りの感情が見え隠れしていた。俺は無言で肩をすくめ、首を振る。
──なにも。
真実は言わない。もしさっきの盗撮に気付いたのが俺ではなく潤花だったら、おそらくあの程度では済まなかっただろう。
そんな俺の思惑を察したのか、潤花は訝しげに目を細めながらもそれ以上の追及をせず、すぐに優希先輩と小早川の方を向いて表情を緩めた。
ひとまずトラブルの芽を摘んだところで、俺は腹をくくる。
そもそもこんな顔面偏差値70レベルの女子たちと行動している以上、目立つなという方が無理な話だった。
ここは自分の買い物なんて度外視して、周囲への警戒に集中するしかない。
そう決意してから俺は、しばらく下宿生女子たちのにぎやかな会話に適当な相槌を打ちながら人込みの中を歩いた。
「すみませーん、ミックスチョコスプレーひとつくださーい」
「私ストロベリーホイップ!」
「は⁉ これからラズベリーサンド食うってときに何買おうとしてんの⁉ 正気⁉」
道中、美珠姉妹がいきなり渋滞から逸れて角を曲がったかと思うと、すぐ近くにあったクレープ屋に立ち寄った。目的のスイーツまであと少しだというのに、信じられない暴挙だ。スイーツの前菜のスイーツなんて、それはもうメインディッシュ二つだろ。
「腹が減っては戦(いくさ)ができぬって言うからね」
「戦の前に戦してるようなもんだろ! ピーナッツバターのカロリー舐めてんの⁉」
「わかった! わかったよ古賀くん。そこまで言うなら古賀くんにもあげる。はい、あーん」
「いやせんぱ──はぐっ…………ん。うまい……」
「衣彦ほら、タピオカミルクティーもあるよ、どうせ好きでしょ? 飲んで飲んで」
「てめ、どうせって何んっ、んっく……」
「あ、衣彦口からちょっと垂れてる。も~、おこちゃまなんだから。はい、拭いてあげる」
「みんなして子供扱いすんなよ。俺はもう大人だから、こんな餌付けで機嫌良くなるほどチョロくねーよ」
「そのわりには全部美味しそうに食べてるね……」
ぼそっと余計な一言を言った小早川に向けてキッと睨むと、小早川は蛇に睨まれたカエルのように怯えて「ご、ごめん……!」と謝ってきた。キジも鳴かずば撃たれまい。
「ったく、あんたらは先のこと考えないで行き当たりばったり……そんなんで何かトラブルあっても知らないからな」
頭を掻きながら悪態を吐くと、呑気にクレープを食べていた潤花が前の方を指さしながら不敵に微笑んでいた。
「そう言う衣彦は、こうなることは予想できてた?」
「はぁ? どういう……」
潤花の指さす方向。
そこには、目的地のラズベリーサンド屋のキッチンカーがあった。
そしてその下には……
「げっ!」
「えーー! すごい並んでる‼」
俺とみずほ姉ちゃんが同時に声を上げた。
世間は平日だというのに、そんなのお構いなしと言わんばかりの長蛇の列が、目の前に並んでいた。全員がキッチンカーの客だった。列に並ぶ客層はほとんどが学生か、二十代。着ている服装はみんなカラーリングが派手なオーバーサイズで、まるでパレードの仮装行列を彷彿とさせる装いだった。最後尾に人が次々と合流している様子を見る限り、駅を出てからずっと前を歩いていた人たちの多くは、その列に向かって吸い込まれているのかもしれない。
「ドラマ放送した直後のお店なんて、混むに決まってるよね」
確かに、浅はかだった。認めたくはないがこればっかりは潤花の言う通りだった。
「お前……気付いてたならどうして言わなかった?」
「いや、計画性のある衣彦のことだから、きっとこういうトラブルも想定内なんだろうなーって思ってたから」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる潤花。
くそ、顔はいいくせにこういうところは可愛くないやつだ。
「どれくらい待つのかな……」
「最後尾全然見えないねー。一時間くらい待つんじゃないかな」
「衣彦……どうする? 今日は諦める?」
「いや、俺の辞書に諦めるなんて言葉はない」
「古賀くん、意外と負けず嫌いだね」
「だって、せっかくここまで来たんですよ。ここは俺が──」
「私が並んで待ってるからさ、その間みんなは遊んできなよ」
俺の言葉に被せるように、潤花がそう提案した。
俺は驚く。気が短そうな性格からして、長い時間行列を待つことなんて絶対に嫌だろうと思っていた。
「それはダメだよ潤花。だったら私も待つ」
「私も。潤花ちゃんが一人になっちゃうの、嫌だな……」
「いいのいいの! 私、お母さんに電話しなきゃいけない用事あるから、並びながらお母さんと話してるよ。せっかく原宿来たんだから、みんなは買い物してな」
「この列だと結構待つぞ」
「余裕。私とお母さん、話し出したら止まらないから」
いや、だからってみんなで来たのに長時間一人ってのはないだろう。
姉として妹になんとか言ってやれよ、という意味で優希先輩に視線を送るが、肝心な先輩は「いやぁ~、付いたぁ」なんて泣き言を言いながら袖に付いたクレープのチョコを拭くのに必死で、潤花のことなんてまるで気にしていなかった。おい、あんたら仲良いのか悪いのかどっちなんだ。こういうときこそ妹の身を案じてやれよ。
呆れた俺はこれ以上先輩を当てにするのを諦め、腕時計で時間を確認する。まだ昼になったばかりだ。依然として行列の様子が変わらないところを見ると、先輩の言っていた通り最低でも一時間は待つことになりそうだ。
「三十分くらい経ったら迎えに来るから、そのとき俺と交代しよう」
「別にいいよ。そんなことしなくたって」
「俺も親に電話しなきゃいけない用事あるんだよ。やたらメッセで連絡来るから、電話した方が早いんだ」
「そんなの、今でなくたって……」
「潤花、古賀くんと途中で代わってもらいなよ。交代したらさ、女の子だけでアレ撮ろうよ、アレ。撮った写真がシールになるやつ。私、やったことないんだよね」
潤花が言い淀んでいると、優希先輩がようやく説得に加勢してくれた。
どうやら袖の汚れは諦めたらしく、本人がしれっと語る横でみずほ姉ちゃんがウェットティッシュを片手に先輩の袖を拭いていた。
「私も……撮ったことないから、初めてはみんなで撮りたいな」
「私も二人の意見に賛成! 潤花も、女子だけで撮ろ!」
「……ってことで、決定な。あとで迎えに行くから、それまで頼んだぞ」
小早川やみずほ姉ちゃんからの後押しに乗じて、俺は反論する隙を与えず潤花に言い放った。さすがの潤花も全員から圧をかけられて反論できなかったのか、ばつが悪そうにみんなと視線を合わせ、やがて観念したように嘆息した。渋々ながら、折れてくれたようだ。
「……とりあえずさ、先にみんな何食べたいかだけ教えて。色々種類あるみたいだけど、何食べたいか決まってる?」
潤花が持っていたスマホを俺たちの前にかざすと、そこにはカラフルな文字で彩られたメニュー表が表示されていた。クッキーアイスラズベリー、キウイオレンジヨーグルト、ベリーベリーピスタチオ……ダメだ、どれも気になり過ぎて目がドライアイになりそうだ。
「私ドラマでやってたやつと同じのがいいな」
「私もそれ、食べたいな」
「はい! 私、ミックスチョコスプレー!」
「今食べてるよね……⁉」
ネタか本気かわからない先輩のボケで、女子一同は賑やかに笑った。
俺も釣られて笑いそうになるが、緩みかけた頬をぐっと引き締めて仏頂面を保つ。
危ない。危うく必要以上に馴れ合うところだった。
そもそもここに来たのはみずほ姉ちゃんが年相応の女子高生らしい生活を送れるようになって欲しかっただけだ。その輪に俺が加わる必要なんてないし、俺だって望んでいない。
下宿生女子が和気あいあいと話している輪の外で、一人スマホの画面を眺めながら、俺は表情を曇らせる。
『夕方空いてる? 話ある』
既読を付けたまま、返事は返していない。
あまりにも突然で、未だにどう返信したら良いか心の整理ができていなかった。
「……ざけんなよ、今さら」
忌々しく独りごちながら舌打ちを鳴らすと、ふいに近くでみずほ姉ちゃんたちとは違う女子たちの笑い声が聞こえたので、顔を上げた。
見ると、オールバックで髪をまとめたシニヨンヘアの少女たちが、同じデザインのチームウェアを着て目の前を横切っていた。
バレエの少女団だ。
よりによってこのタイミングで。
ふつふつと小さな泡のようにあいつの記憶が蘇り、無意識にスマホを握る手に力が入る。
すると、視界の隅から視線を感じた。
目を向けると、視線の正体は潤花だった。
「…………」
またしても、何があったのか問いかけるような視線だった。
しつこいな。
お前には関係ない。
俺は嫌悪感を隠さずに睨み、潤花から視線を逸らした。
潤花が持つタピオカのカップから、カラリと氷の音が鳴った。
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