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「お前・・・退職願い出してたのか?」




私の隣の席の田代が驚いた顔で私の顔を覗き込んできた。

見慣れている田代の顔を見ながら小さく深呼吸をしてから笑顔を作った。




「うん、ちょっと疲れちゃって。」




「ちょっと疲れたくらいで退職願いを出したのかよ?」




「純ちゃんは頑張りすぎる所があるからね。」




田代が詰め寄ってきた時、砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼びそんなことを言ってきた。




田代から視線を移し砂川さんのことを見ると、砂川さんは凄く心配そうな顔で私のことを見詰めている。




「退職願いを出した時に理由を聞かれ、そう答えたのかな?」




「はい、そうです。

そしたら部長から色々と説得されて、一旦一般職に異動をしてゆっくり働いてみるのはどうかと言われました。」




「純ちゃんくらいの年齢になってくると女の子の働き方を会社もよく考えないといけないからね。

経理部になってからはあんまり疲れなくなったかな?」




「はい・・・。」




私の返事に安心した顔で笑う砂川さんから目を逸らし、グラスに残っていた白ワインを一気に飲んだ。




「園江さんのお名前、純っていうんだ?」




羽鳥さんの可愛い声が私の名前を呼ぶ。




「砂川課長、園江さんのことを“純ちゃん”って呼んでいるんですね?

砂川課長が女性のことを名前で呼んでいる所を初めて見ました。」




「会社でセクハラの研修が男性社員は定期的にありますからね。

純ちゃんには名前で呼ぶように言われたので名前で呼んでいます。」




羽鳥さんに丁寧な口調で説明をする砂川さんの説明に1つ付け足す。




「私のことは社内のほとんどの人が名前で呼んでいます。」




「そうなんだよ!

こいつのことをみんな名前で呼ぶから、俺は昔から“田代”呼びになるんだよ!!」




「田代の名前も“純”なんですよね。

同じ名前で幼稚園の頃から一緒なんですけど、何でかみんな私の方を名前で呼んで。」




「どこに行っても俺よりもお前の方が目立つからな!!

間中(まなか)と俺で引っ張り出した婚カツパーティーで、ほとんどの女子達がお前の名前を書くとかどんな異常事態だよ!?」




「「婚活パーティー・・・。」」




砂川課長と羽鳥さんの声が重なった。

それには苦笑いになってしまいながらも笑う。




「私は恋愛や結婚に興味はないんですけど、マナリーが出てみたいというので私も駆り出されて。」




恋愛も結婚も普通の女の子達のように憧れている私が今日もそんな嘘をついた。

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