5
「砂川課長って、社員達のことを凄くよく見てくれるんだよ!!」
羽鳥さんが両手を握り必死に私と田代に向かってそんな自慢話ばかりをしてくる。
なんだかもう可愛すぎて笑いながら何度も頷く。
「増田生命にいる時からそうでしたよ?
別の部署だった私のことも、私達のこともよく見てくれていましたし。」
「そうだよね!?
砂川課長ってお仕事も凄い出来て、部下は帰らせるけどご自身は夜遅くまでお仕事しちゃうくらい仕事熱心な所もあるの!」
「今はそんなに遅くまで仕事してるんですか?
増田生命にいた頃は結構さっさと帰ってましたよね?」
「そんなことないよね、夜遅くまで残業してて俺と一緒に自動販売機の前で一息ついたりしてたのに。」
「それはたま~にですよね?
私の方が圧倒的に残業してましたけど。
まあ、私は営業だったので残業ばっかりだっただけですけどね。
転勤もないエリア総合職採用だったので固定給でしたし、田代よりも営業成績が良かったのに給与は低くて、今思うとよくやってましたよ。」
「お前はあのまま営業になるかと思ったのにな!
そしたらエリア総合職にも行かずにまさかの一般職に異動とかみんなビックリだったぞ?」
転勤もないエリア総合職採用。
増田生命では新卒採用後はどの部署での採用でも数年間は営業を経験させる。
私は女性がメインの職種であるエリア総合職という職種に応募をし、転勤のない総合職として採用されていた。
エリア総合職での採用の場合でも入社後は営業をやり、私は入社2年の頃には営業所で1番の売上げ、全国でも8位以内に入る成績を達成していた。
その流れで入社3年目には本社勤務となり、そのまま営業職への配属。
そして入社6年目には経理部への異動となった。
「さっきの羽鳥さんとの名刺交換の際に聞いて驚いたよ。
だいたい28歳頃から総合職かエリア総合職のどちらに進むかの判断を促されるはずだけど、その2つではなくて経理部への異動を願い出たの?」
砂川さんが真剣な顔で私に聞いてきた。
その顔には心配の表情が微妙に含まれていることが私には分かる。
それくらいに砂川さんと一緒にいたから、私には分かってしまう。
そんな自分に乾いた声で小さく笑い、初めて誰かに打ち明けることを今打ち明けた。
「28歳になる年に出したのは経理部への異動願いではなくて退職願いです。」
私の目の前に座る砂川さんが驚いた顔をしている。
「退職願い・・・?あ、結婚とか?」
28歳頃まで会社に残っていた営業の女の子達は、そのくらいの歳で結婚する女の子が多い。
でも、それをこんな私に言うなんて“酷い人だな”と思った。
27歳まで砂川さんとエッチばかりしていた私が、砂川さん以外の男の人から女として認識されることがない私が、それを知っているはずの砂川さんが私に対して“結婚”だなんて言うのは“酷い”と思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます