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うちの会社にいた頃は財務部に所属をしていた33歳の砂川さん。

4月2日が誕生日の砂川さんはあと数日で34歳になるはずで。




“今日で30歳になったばかりの私とは4歳差になるんだな”

と、そんなどうでも良いことを思い浮かべながら難しい顔をしている砂川さんのことを小さく呼んだ。




「砂川さん・・・。」




「田代君は何処に行ったの?

こんなに泣いてる女の子を置いて。」




砂川さんが私のことを“女の子”と言ってくれた。

砂川さんと出会ったのは私が24歳になった数日後の4月1日、本社勤務になった初日の社会人3年目だった。

そして最後に会った時は27歳になった数日後、3月の最後の日。

4月1日付けで砂川さんが増田ホールディングスに転籍をする前日だった。




出会ったばかりの24歳の私のことも、27歳になり社会人歴5年が経っていた私のことも、砂川さんだけは“女の子”として接してくれた。




増田生命にいるどの男性社員よりも“綺麗で格好良く”、女の子達から1番モテるであろう私のことを、“結構格好良い”くらいの姿の砂川さんは私のことを“女の子”として扱ってくれていた。




今日で30歳になり社会人歴も8年になる私のことを砂川さんはまだ“女の子”として扱ってくれるらしい。




「ハハッ・・・」




小さな乾いた笑い声が涙と一緒に流れた。




「田代はバレンタインのお返しを買いに行ってくれているんだと思います。

今日はホワイトデーなので。」




「そうか・・・。

今日はホワイトデーだから田代君とデートなのか。」




砂川さんから“ホワイトデー”や“デート”なんて言葉が出てきたことには驚き、私は笑顔を作り笑った。




「デートじゃないですよ。

お互いに暇だったのでご飯を食べに来ただけです。

砂川さんこそホワイトデーのデートですか?」




少し離れた向こうの席、そこからとんでもない美女が私達の方を振り向きながら見ている。

とんでもない美女で、初めて見るはずなのに何故か見覚えがあるような気もしてしまう。




「ああ、“彼女”は小関社長の姪御さん。

増田ホールディングスの経理部に所属しているから今は俺の部下なんだよね。」




「小関社長の・・・姪御さん・・・。

増田財閥の分家の女の人・・・。」




砂川さんが“彼女”と呼び説明してくれた内容が頭の中で何度も何度も回っていく。




増田生命の社長、小関社長は増田財閥の分家の人間。

子どもを授かることがなかった小関社長は小関の“家”を弟に譲り、小関社長の弟が小関の“家”を継いでいることは知っている。




そしてその“家”の長女の“一美さん”。




小関一美ではなく両親の離婚によりお母さんの姓になっている“羽鳥一美さん”。




“分家の女は男性と個人的には会わない”




“家”が了承している異性でなければ勝手に会うことも許されない。




“家”が了承している異性とは婚約者のこと。

それを今でも守っている分家の女なんていないのはずなのに、“羽鳥一美さん”だけは守っていると私は知っている。




私は知ってしまっている。




「砂川さん・・・“羽鳥一美さん”の婚約者になったんですか・・・?

おめでとうございます・・・。」




高校からの友達、加藤 望(かとう のぞみ)は小関の“家”の秘書の生まれ。

執事のような役割の“家”に生まれた望から“一美さん”の自慢話は散々聞かされていた。




だから私は知っている。

“羽鳥一美さん”がどんなに素晴らしい女性かということを。




“分家の女は、増田財閥を支え増田財閥の為に動ける男と結婚をする”

そんな古くからの役割を今でも守ろうとしているたった1人の分家の女性。




そんな女性が向こうの席に座り砂川さんと一緒にこの店に来ている。




今日は3月14日のホワイトデーの夜。

増田ホールディングスの経理部の課長として栄転をした砂川さんは、私が教えてあげて私と3年前までよく来ていたこの店に来ていた。

数え切れないくらい私と身体の関係になっていた砂川さんが、“羽鳥一美さん”と・・・。

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