19.『冬求む。故に冬狩る』



 彼女は笑う。笑いながら舞っている。


 左右の足を入れ替えながらくるくる回り、頭上を仰いで天に笑いかけている。空はほのかに明るい曇天で、今にも雪が降り出しそうだ。

 しかし雪は降らない。

 だから我々は彼女を狙う。


 スカートの裾が傘のように広がっては、彼女の細い脚にまとわるのを繰り返す。我々の隙間を塗って蛇行しゆく彼女の胴を、一人が鉈で切りつけた。切り裂かれた脇腹から、どっと雪がこぼれた。

 切られたことなんてまるで意に介していない彼女は、変わらない笑顔を浮かべたまま、また回る。

 堰を切ったように皆が刃物を振りかざし始めた。

 肩を切る。雪が出る。

 腰を切る。雪が出る。

 腕を落とす。落ちた腕は雪の塊になった。

 踊る彼女の身体は次々に切り落とされ欠けていく。切りつけられた膝が雪に変わり、かくんと彼女の身体が勢いをなくす。そこで片脚が落とされた。

 地面に倒れた彼女に、わっと群がる。

 崩れ落ちた拍子に、彼女の身体は服の下でほとんど雪と化していて、皆そこに膝をついて我先にとその雪をかき集めた。久々──もしかしたら、生まれ始めて腕に抱く雪の冷たさに頬ずりをする者もいた。


 皆それぞれのを抱え、その場を立ち去っていく。やがて人がいなくなって、そこには彼女だけが取り残された。

 身体はほとんど奪われ、雪の欠片がところどころに散らばっているだけだ。


「……あんたはいらないの?」


 彼女が問う。こちらを見てもこちらに来る為の脚がない彼女の元へ歩み寄る。透き通った氷の瞳には、わたしはどんな顔に見えているだろう。


「あんたも、冬をお求めじゃなかったかしら」

「……わたしだって、冬が欲しかったよ。でもこんなことになるなら、冬なんていらなかった」


 彼女のかたわらに膝をつく。わたしを見て、相も変わらない微笑みを浮かべる彼女に、唇を重ねた。


「わたしはこれだけでいい。これ以外いらない」

「……困ったやつ」


 伸ばされた片手を取って、その冷たい指先にキスをした。







『冬求む。故に冬狩る』/終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る