3.【香りの格子】


 往来で、ふと鼻腔をくすぐった桃の香り。

 果物そのものの自然で混じり気のない香りではない、人の身体にまとわせるための人工の甘さ。手のひらで優しく触れるように香る桃。


 涙の気配。


 隣を歩く君の眼が涙ぐんだのを見て、君はまだあの人の匂いに囚われているのだと知った。


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