第1話 六番目、六人目
目の前のカプセルの扉が、白い煙を
【試験体[BLUE‐6]のカプセルパージが確認されました。該当する係員は、速やかに試験体を保護してください。……繰り返します。試験体――】
天井のスピーカーからは淡々と機械音声が流れ続けており、暗い部屋の中を赤い回転するランプだけが薄暗い空間を照らしだしていた。
しばらくすると、自分の肉体が解凍されたせいか痛覚などの五感が戻りはじめる。同時に、神経を刺すほどの尋常じゃない寒さに襲われて、体中の皮膚に鳥肌が浮かび上がった。
「……へくしっ――‼」
全裸でコールドスリープ用のカプセルに入っていたせいだろう。体が震え、思わず盛大にくしゃみをしてしまう。
辺りを見渡してみると、どうやら他にもコールドスリープを行っていた人達がいたのか、既に空となったカプセルがいくつか配置されていた。一瞬、誰か入っているカプセルはないものかと探してみるも、どうやら俺が最後の覚醒者であるらしい。
カプセルは全部で六基、円を描くようにして配置されている。それらが置かれているこの部屋は、全体が霜で覆われるほどの低温に設定されているらしい。天井の巨大なダクトさえもが無数の
だが、そこで俺は異変に気が付いた。
本来であれば、目が覚めた瞬間にコールドスリープを行った施設の関係者が、俺を何年後か分からないこの世界を案内することになっているはずだ。――だが、見渡す限りそのような人物は見当たらない。
俺はここから出ていいものかと一瞬だけ考えるが、このままここにいたら低体温症で死にかねないと判断し、裸足のまま目の前の床へと足をだす。
「――――ヒエッ‼ 」
寒い、いや痛い。そんな絶叫とともに慌てて足を引き戻す。足の裏を見てみると霜焼けのように赤くなっていた。とはいえ、このままでは移動すらできずに凍死してしまう。
よくよく見ると、凍っている部分とそうでない部分がある。仕方がないので、俺は遠くの氷が張っていない場所へと狙いをつけた。
「――――っ」
コールドスリープ装置に長年寝たきりだったせいで全身の筋肉が落ちており、想像よりも飛距離が伸びなかったが、なんとか想定した場所へと着地することが出来た。どうやら地面の濡れていない部分は濡れている部分よりもマシで、
でも、正直、冷たいのには変わりはないが……。
「早く服を着ないと……」
そう言いながら俺は近くの防護扉に向かって歩き出す。途中、いくつか氷と化した水溜まりと遭遇したが、それもジャンプすることで回避した。
目の前に立ちはだかる頑丈そうな防護扉。扉には大きなタッチパネルが付けられており、長い間放置されていたからか叩いてみても起動する気配すらない。
「……べぶしッ――‼ 」
さ、さむい――。
今度はさっきよりも盛大にくしゃみが出て、思わず震えながら身をかがめる。一刻も早くこの部屋を出なければ、最後は震える力すら残らずに意識が遠のく。
そんなひしひしと「死」が体に這い寄る感覚に恐怖を覚えながらも、俺は屈んだ拍子に、扉の電源と思しき巨大なコードが抜けていることに気が付いた。
物は試しと、ソレを特殊な形をしたコンセントに差すと、扉に付いていたタッチパネルの画面が起動するのだった。
数刻もしない内に電源が復旧した。
そのタッチパネルに触れると、扉の近くに設置してあったランプが青色に回転しながら光り始める。間違えて自爆コードでも作動させてはしないか、などと変な勘ぐりをして余計に震えがひどくなるが、なんとか歯を食いしばって我慢する。
幸いにも、【B.L.U.E.】というロゴが描かれた重厚な扉は『ゴウンゴウン』と音を立てながらスライドしていき、部屋の外へと繋がる出口が現れる。
あまりの寒さと得体の知れない空間に限界だった俺は、ペタペタと情けない足音を立てながらも、急いで部屋から脱出するのだった。
***
「誰か――、いませんか――!!」
点滅をくりかえす黄色い
『コールドスリープから目覚めた時、係員、もしくはそれに準ずるロボットか何かが、キミを治療室へと持っていく手筈になっている。キミの患っている病(やまい)を治せる時代になればカプセルから解放されるだろう』
「…………、……いないじゃないか……」
コールドスリープのカプセルに入る前、医師のような男はそう言っていた。
だが、この地下施設には人の気配がまるでなく、全裸で施設の中を徘徊し続ける情けない姿の自分を壁の反射越しに見てしまい、俺はため息をついた。
……何かトラブルのようなものが起きているのかもしれない。
そんなことを考えながら、至る所に【B.L.U.E.】というロゴが描かれた壁を通り過ぎていき、数十分ほど経った頃だろうか。
いつの間にかあたりの通路は、コンクリート材質の冷たい雰囲気から近未来的な白をベースとした空間へと変わっており、ところどころ青色に発光する照明だけが周囲をぼんやりと照らしだしていた。
寒くはない――、が、さすがに全裸で徘徊し続けるのも気が引けたため、俺はようやく開いていた近くのドアに入ることにした。
『特殊格納室‐301』
経年劣化で霞んだ表札が貼られたドアを開くと、そこは乱雑に色々なものが放置された物置部屋のような空間が広がっていた。
いつの時代のものか分からない塗装のはげたCDプレイヤーに、ほこりのかぶった旧世代のデスクトップパソコン。ぶちまけられた大量のダンボール箱の山に、中から漏れ出す数えきれないほどの衣服が山積みになっていた。
「あっ、服……」
ダンボール箱のいくつかを開けると、そこには下着にTシャツ、ズボン、さらには簡素なパーカーなど、かなりホコリをかぶって傷んでいるものの、充分に着用できるものだ。
一刻でも早く全裸姿をやめるため、すぐに傍にあった服を手に取って着始める。
「…………っ!」
そのとき、サイズの合うものを探そうとダンボールの山を崩していたせいか、絶妙な均衡を保っていたゴミ山の中身は、雪崩のようにして盛大にあたりへとぶちまけられた。
ドサドサと自分の頭上に降り注がれるダンボールたち、足場を崩されたせいで巻き込まれた俺は、悲鳴を上げることも許されずに埋もれるのだった。
積もっていたホコリが舞い上がり、空気の流れがあるわけでもない部屋の中に再び降り始める。俺はコールドスリープの影響なのか、全身にまとわりつく倦怠感に身を任せたまま、しばらくはウンザリとした気分で埋もれていた。
「ごほっ、ごほっ、……とんだ災難だクソ、最悪だ……」
愚痴りながらも生き埋めから脱した俺は、傍にあったいくつかの服を引っ張り出し、長年放置されていたせいでホコリ臭い服を、俺はパンパンと手ではたきながら着るのだった。
そこで俺は、部屋の奥になにやら、ひときわ青い光を漂わせる何かが置かれていることに気がついた。薄いカーテン越しにぼんやりと見えるそれは、どうやら水槽の類のようで――
「なんだ、この生き物……」
近づいてみると――この部屋の前の居住者は熱帯魚を鑑賞する趣味でもあったのか――そこには、中に肉食魚のような見た目の生き物が浮かぶようにして泳いでいる巨大なカプセル型の水槽があった。
俺は思わず、その水槽を呆けるような顔を浮かべながら無意識のうちに、さらに近づこうと歩みを進めた。
見た目はピラニアに近いのだが、そのサイズが従来のソレとは桁違いの大きさで、記憶の中にあるどの魚よりも一、二回りは大きかった。その胸の部分には光り輝く球状の物体があり、見たこともない生物であるのは間違いない。
よくよく見ると、ガラスには黄ばんだ紙のようなものが貼られており、青くライトアップされた水槽にひとかけらの影を生み出していた。
【被験体‐00‐ORIGINAL】
【[BEAT STOPPER]】
そう書かれたラベルを前に肉食魚のようなソレは、ゴポゴポと小さな泡を生むカプセルの中で、なんの感情を浮かべることなく
***
スニーカーを履いたことで情けない足音を立てることもなくなり、服をいくつか着たことで肌寒さもまったく感じることはない。俺はいくぶんか心に余裕を取り戻しながらも、再びこの施設の中を探索していた。
探索していて気がついたことは、どうやらここは地下にある何かの研究施設だということ。施設全体がトラブルに見舞われたらしく人がいないのだということ。
……たった、この二つだけだった。
俺はパーカーのポケットに手を突っ込みながら、どこか漠然とした不安感に覆われたまま通路を眺めていた。そのまましばらく歩いていると、一つだけ明らかに漏れ出す光量が異常な部屋があり、俺は思わずその扉を開けるのだった。
「…………、…………ッ‼ 」
この施設のコントロールルームだろうか。
全面に大量のモニター画面が貼られており、今もなお何枚かのパネルを除いて稼働中のようだ。だが、何枚かは弾痕のような跡によって完全に破壊されているようだった。
だが、俺が息を呑んだのはその部屋の光景を見たからではない。
視界の端に捉えた白いナニカの正体を、理解したからだった。
――白骨死体。
平たく言えば、そう表現することができるだろう。
白衣に身をまとった医者らしき死体に、もう一つ病衣のようなものを着込んだ患者らしき死体があった。医者らしき死体は、胸の辺りを抑えるようにして壁際に寄りかかっており、患者らしき死体は床の真ん中で横たわっている状態だった。
医者の白衣の胸には黒く墨汁のような痕があり、患者らしき遺体のガイコツの眉間辺りには盛大に風穴が開いている。そのどちらもが何者かに撃たれて死んだ状況であることに、俺は今更ながらに気が付いた。そして、無意識のうちに医者の手に握られている拳銃へと目が向けられていた。
冷汗がひたいから頬にかけて流れ、やがてアゴから地面に滴り落ちる。
「なんで、こんなものが……」
思えば、今がコールドスリープをしてからどのくらい経った世界なのかを俺は知らない。
事前に聞かされた話によると、このコールドスリープ装置は最長で数百年もの冷凍に対応しており、多少の変化はあれど、恐らく人類はそのまま人間の姿をしているだろうと説明を受けていた。
とはいえ、それは理論上のお話だ。
……実際は分からない。
日本社会では明確な「死」の象徴である遺体など、めったに見ることができなかったせいか、俺はこの死体たちをどうにも本物だと思うことができなかった。だからだろう。まるでロウ人形を目の前にしているような感覚で、俺は医者の手に握られた拳銃を引き剥がすのにもあまり抵抗がなかった。
……変な銃だった。
まるでSF映画のワンシーンに登場しそうなフォルムに、金と銀のメッキがされた美術品のようにも思える外見。リボルバー、だろうか。よく見ると、指紋認証か何かのためのセンサーらしきものもある。だが、素人目からしても、人に向けて撃つようなものには見えなかった。
そもそも、銃を撃った経験なんてない。
それなのに、銃なんてものがこんな所に置いてあるということは、それだけ物騒な社会に変わったということかもしれない。身を守る手段は持っておいても損ではないはず。
「……ふん……っ!」
まるで初めてモデルガンを持った小学生のような心情のまま、俺は銃弾が入っているかどうかを見ようと四苦八苦する。そしてようやくシリンダーが外れたと思った瞬間、なぜか地面へと盛大に吹っ飛んでいき、ポロリと中からひとつだけ金色に輝く金属のようなものがこぼれるのを、視界の端で捉える。
次いで鋭い金属音が、あたりに響き渡った。
それは甲高い音を鳴らしながら跳ねると、やがて机の足に当たって静止した。
自分の親指ほどのサイズのそれを拾ってみると、すこしだけ火薬のにおいが鼻腔に入った。なんとか再びそれをシリンダーへと込め、そのまま銃に戻してみる。
果たしてこれで合っているのかはまるで分からないが、できれば人に向けては撃ちたくないな――などと思いながら、俺はそれをズボンの右前ポケットに押し込む。そして、歩き続けたせいで疲労した足を踏ん張らせながら、立ち上がった。
出口はないかと意気込む俺を横目に、死体たちはどこか焦点の合わない虚空を眺め続ける。彼らは何も感じず、何も考えず、何も話さない。
だからこそ、彼らは警告することもできなかった。この施設には、すでにバケモノが潜んでいるということを。
***
あのあと、点滅するモニターに映っていた施設の全体図によると、ここよりもさらに下の階に地上に出るための経路があることが分かり、俺はそこへ通じる仄暗い階段の前に立っていた。
……気味の悪い場所だった。
先ほどまでの整備された通路とは一変して、下水道のような薄暗さと狭さを兼ね備えたどこまでもカビ臭い陰気な場所だった。あたりを照らす唯一の光源は、階段に入る前の通路の光だけだ。
当然ながらそれでは奥の方までは届かないらしく、扉を全開にしても、階段下のフロアは黒く塗りつぶされているようで、まるでどうなっているのか見ることができない。
地下鉄に入るまでの通路に似た構造をしているが、どうやら元々階段に設置されていた照明はすべて経年劣化で壊れているらしい。汚物でもぶっかけたような黒い液体が残る壁は、この空間をさらに陰気なものへと拍車をかけていた。
「…………」
そんな階段を、一段、また一段と、手すりにつかまりながら降りていく。
当然ながらここには風の流れや音などはないため、自分の息遣いと鼓動だけが響いており、呼吸するたび耳が痛い。次第に暗くなる周囲の空間に、本当にこのまま行くべきなのか再び迷いが強くなる。
最初は躊躇した。迷いもした。
こんな場所に行かずとも、きっと待っていれば誰かが見つけ出してくれるのかもしれない。それに、そもそもあの場所には探せば多少の水や食料があるはずだ。救助を待つべきじゃないのか――
【■■■■■■□□□□――】
それでも、行くべきだと思った。
直感に過ぎないが、なぜかこのときだけは、自分からこの場所を出るべきだと思った。他人の意見に流されてばかりの俺には、ありえないことなのに。
ふと振り返ると、あれだけ明るかった通路はいつの間にか遠くの上の方にポツンとあるだけで、あたりはすっかり暗く澱んだ空間が広がっていた。
多少は目が慣れたこともあり、なんとか階段の底にたどり着くと、元いた通路は光の点のようにしか映っていなかった。下水道のような古くカビ臭い湿気を数段増したような、そんな陰気で暗い通路が階段の底にはあった。
しばらく進むと、右と左に別れた通路が現れる。正面の壁には、なにやら文字が書かれた看板があったが、かすれて読み取ることはできなかった。
『左、「排水ダクト・水力発電タービン」、右、「地上行き非常口エレベーター」』
だが、ふと右の通路の奥にあれだけ欲していた明かりが灯っていることに、俺は遅まきながらも気がついた。廊下の奥でパチパチと点滅しながら天井からぶら下がる非常灯が、遠くからでも緑色のピクトグラムの光をぼんやりと放っている。
非常灯ともなれば、あそこが出口なのだろう。
そう思い、俺は右へと体を向けて歩き出そうとした。
そのときだった。
なにやらその照明の下で、もぞもぞと
こんな場所で何をやっているのか、なぜこんな場所にいるのか。果てして人なのか。そんな懸念など一切考えることなく、「ようやく動くものに出会えた」と、このときの俺は嬉々として話しかけてしまった。
「あ、あの――」
思えばこのとき、声をかけてしまったこと自体が悪手だった。正体を冷静に遠くから見極め、分かった瞬間に音を立てず逃げるべきだったのだ。
俺の言葉に反応するように、そのナニカはピクリと体を震わせて、こちらへと振り返る。その蜘蛛のような六つの藍色に光る眼をこちらに向けると、犬や獣に似たその生物は、耳までバックリと割れた口からヨダレを垂らす。
そして、俺とバケモノは対峙した。
非常口の先にいたのは、正真正銘の異形のナニカだった。
対峙――と言えば聞こえはいいかもしれないが、実際はヘビに睨まれたカエルというのが正しい構造だろう。緑色の非常灯のピクトグラムの下で、ソレは口元からヨダレを地面に滴り落ちるまで沈黙を保っていた。
だが、ソレが俺の正体に気がついた瞬間、沈黙が破られるのもまた早かった。
「――――ッ‼ 」
ヤバイ。
脳がそう考える前に、俺は脱兎のごとくバケモノとは反対側の方向へ駆けだした。直後、背後から通路全体を震わすほどのすさまじい咆哮が放たれ、同時にすさまじい勢いで轟音が走ってくるのを肌で感じた。
ちらりと後ろを見ると、バケモノが殺気に満ちた眼光を浮かばせながらすぐ後ろまで迫ってきており、俺は恐怖で脚を千切れんばかりに回転させるのだった。
直後、再び左右に別れた分岐路が現れ、どちらに進むか考える時間もなかった俺は、そのまま――
【■■■■■■□□□□――】
「左だっ――!」
直感に従い、そのまま左右の分かれ道を転びそうになりながらも左に進むと、さらにハデに何かがぶつかった音が背後で響き渡った。その衝撃波で地面が揺れるが、転倒を防ぐために一層力を込めて床を蹴り飛ばす。
そのまま息も切れ始め、もう走れないと弱音を吐きそうになったころ、やがて前方から風が吹き込み始めた。
――出口だ。
そう思ったのも束の間、それが何かを認識した俺は急ブレーキを全力でかけた。だが、勢いは止められずに、そのまま転落防止用のフェンスに盛大にぶつかってしまう。
「――っ」
底なしの穴が広がっていた。
元は、俺の身長を越えるほどの高さだったのだろうフェンスは、残念ながら経年劣化によって腰の高さまでしか残っていなかった。盛大に落下しかけたのを、フェンスを掴むことで何とか体勢を持ち直す。
だが、落下しかけたせいで青ざめた顔を舐めるようにして、深淵から突風がびゅうと吹き抜けるのだった。
その空間は上下ともに吹き抜けになっており、見上げても見下ろしても、天井と底が見えることはなかった。そこにあるのは、ただただ巨大なダクトのような吹き抜けの空間のみ。いや、よく見ると、下の方にはタービンのようなものが回っているのがかろうじて分かる。
(さすがに、ここは降りれないか……)
タービンの回る速度はそこまで速くはない。だが、距離からして万が一に羽にでも当たれば骨折は免れないだろう。そもそも底がどうなっているのかさえ分からない。もし地面だったなら、それこそ死ぬ以外に結末が――
そこまで考えたとき、俺は一つの選択肢を思いつく。
――撃つしかない。
脳内に走った考えに、俺はズボン越しに当たる金属の塊の存在を思い出した。そして、慌ててズボンからリボルバーを取り出そうとする。
だが、何かに引っかかったせいで手間取り、俺はズボンに千切れんばかりの力を加える。
「…………ッ、くそッ――‼ 」
ようやく銃を取り出せたころには、バケモノが目の前にまで迫ってきており、俺は震える体を限界まで力ませ、取り出した拳銃をヤツに向けてなんとか構える。体中に力を込め、照準をバケモノの眉間へと合わせ、そして震える指でトリガーを引こうとする。
だが、銃を握る腕は、これ以上ないほどに細かった。
轟音、衝撃――。
次いで訪れる浮遊感に、俺は遅まきながら、銃の反動に耐え切れずフェンスを乗り越えてしまったことに気がついた。
「あっ――」
あまりにも情けない声を発しながらも、そのダクトの中を内臓が浮く感覚に歯を食いしばりながら落ちていく。
鼓膜に響く風切り音。
だが、目を開けると、すぐ目の前にまで無傷のバケモノが追ってきて――。
瞬間、自分の体のすぐ横をタービンの羽が掠めていき、自分の代わりに、目の前でバケモノが勢いよくタービンの羽と激突。頭蓋骨が砕けるようなすさまじい音を鳴らした。
ぐちゃっ、という肉が飛散する音が耳に伝わり、これ以上ないほど頬が引きつったのを感じた直後、俺は無意識のうちに水が流れる音が来るのを感じた。同時に、何か壁のようなものが近づいてくる。
そう気がついた瞬間、全身にすさまじい衝撃が走った。あまりにも脳が揺らされたせいか、まとわりつく冷たい水の感覚に溺れながらも意識を手放してしまう。薄れゆく視界のなか、あとには意識のない体だけがどこかへと流されていくのだった。
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