クロノスレクイエム〈サイバーパンク〉
村上さゞれ
【第0章】ネオみなとみらい篇
第1話 缶詰の街
プロローグ
ふと、目を閉じてみる。
遠くで鳴り続けるクラクション、ホログラム状に映し出されるアダルト広告の
それらが何十にも重なって、ひとつの騒音として鼓膜へと響き渡っていた。直後、何かが立ち止まっていた体にぶつかり、思わずよろめいてしまう。
『――チッ、邪魔くせぇよ』
「あ、すみま……」
思わず謝ろうと振り返るも、あまりにも速い流れの人ごみのなかでは、肩をぶつけた当人を見つけることは叶わなかった。
行き交う人々の格好も普通のソレではない。
ほとんどが体の一部を機械化させており、なかにはフルフェイス型の外部ガジェットのようなものを装着している者もいた。光源を帯びたガジェットに、奇抜で毒々しい色のジャケットを着こなしており、それは機械と人間との境界線が融解していることを示していた。
「…………」
見上げれば、毒々しいピンクの『MOTEL』と蛍光色で主張する看板に、なにか銃器の宣伝と思われるホログラムがビルの上で回転している。
空は見えず、代わりに配線や巨大なパイプ管が張り巡らされた天井が街全体を覆いかぶしていた。
『にしても、今日の排水スプリンクラーは盛大だな。そろそろ雨季だったか?』
『アア、らしいナ。たぶン上層か中層で、大規模な配管工事でもやってるんダロ』
道路脇に並ぶ屋台のせいで、食べ物の臭いと人の臭い、そして雨水のペトリコールが、思わず鼻を抑えたくなるくらいにまじりあっていた。
彼らはそんな劣悪な環境にも関わらず、これが日常だと言わんばかりに
どこまでも続く人々の喧騒と、雨でぬれたネオンの輝き。それらの放つ毒々しい光は、いつまでも行き交う人々の顔を染め上げている。
どこか、どうしようもなく遠い場所に来てしまった。
そんなあまりにも見知らぬ土地で一人なのだという孤独。胸の奥をざわつかせるどうしようもない
雨もネオンも、鳴りやまない――。
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