第17話 忍法、素体垂素《ステイタス》開示《オープン》の術

 俺は末席に座っている十歳くらいの女の子、その隣の少女を見た。

 そいつは修道服を着たぶつぶつ肌の太った少女だ。彼女は俺とアイコンタクトをとると、袖で隠しながらも小さくつんつんと隣の女の子を指さした。

 むむ。

 なにか、あるな。

 俺は口の中で小さくつぶやく。

 かなり疲れるから、めったにやらない上級忍術を使うことにしたのだ。


忍忍にんにん。忍法、素体垂素ステイタス開示オープンの術!」


 直後、この場にいる人間の頭上に、その身分と精神力体力が俺だけに見えるように表示される。

 司祭の頭上には、


【司祭 精神力 1254 体力 58 頭脳 85】


 アルティーナの頭上には、


【魔王の末娘 魔族少将 ニンジャ少将 精神力285 体力52863 頭脳 65】


 ふむ、現状まだ魔王の部下、という体裁は保っているので、魔族少将っていう身分はそのままみたいだな。

 あと我ながらニンジャ少将とか意味わからんな。

 カルアの頭上には、


【偽聖女 農家の娘 精神力15 体力 11 頭脳 42】


 そして肌の汚い女の頭上にも。


【変装したくノ一 精神力8368 体力 23 頭脳 89】


 そう、彼女の名はリチェラッテ。

 俺が変装させて数日前から送り込んでおいたのだ。

 情報を得るためだったが、一度教会内部に送り込んだら、けっこう厳しく情報統制されていたらしく、手紙ひとつも送ることができなかったようだ。

 ま、アイコンタクトひとつで全部解決できたからよしにしよう。


 さらに最上級の素体垂素ステイタス開示オープン照苦数デラックスを使えばもっと詳しいステータスがわかるのだが、超絶疲れるし、そもそも必要な情報はすでに得ることができた。

 俺は続けて口の中で呟く。


忍忍にんにん。忍法、念話の術!」


 これは俺から一方的に意志を伝えることのできる忍法だ。

 ちなみに俺レベルのニンジャが二人そろっていれば普通に念話だけで会話もできるけど、リチェラッテも含めてそこまでのレベルに達している奴は俺以外にまだいない。

 俺はこの忍術で聖女のふりをしているカルアに情報を伝えた。

 カルアは一瞬驚いた表情を浮かべてからかすかに頷いた。


「さあ、こちらへおいでなさい。神の言葉を聞いたというならば、その言葉を司祭に伝えるのです」


 司祭の言葉に従って、カルアは緊張した面持ちでアルティーナと司祭のもとへと歩いて――こなかった。

 一番末席に座っていた、十歳くらいの女の子の前にひざまずいたのだ。


「おおおお!?」

「うそでしょ?」

「どうして……」

「極秘中の極秘なのに」


 その場の聖職者全員がどよめいた。

 なぜわかるかって?

 この俺は人類史上最強にして最良のニンジャ。

 勇者ですらおそれおののいたニンジャなのだ。

 この俺を試そうなどと、司祭よ、百年早いわ。

 カルアは十歳くらいの女の子の足元にひざまずき、こういった。


「神の言葉をお伝えいたします。あなたこそ、人間たちの君主となるべき存在。神がそうおっしゃってます、わが君よ」


 おおおおおおっ、とその場にいる聖職者全員が歓声に似た声を上げた。

 ふむう、なんちゅー利用価値のある人間もいたもんだな。

 その女の子の頭上には、こう書いてあったのだ。


【王族の唯一の生き残り 精神力 11 体力4 頭脳98】


 人間の世俗権力も宗教権力もすべてを握れるぞ。



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