何変哲ない魔法学校の日常の一コマ
庭の小鳥
第1話 使役動物のトレンド
今は選択授業の魔法薬学の時間だ。本来ならば『笑いが止まらなくなる薬』というハッピー超えて恐怖を感じる魔法薬の調合の時間だったのだが、前年の干ばつで紫水の国で取れる胡蝶蘭が不足してしまっていた。それを昨日科学部の生徒達が無断で使い底を尽きたため、急遽自習時間となったのだ。
自習時間と言っても先生が居ないので自習している者は殆ど居ない。皆自由にお喋りしたり昼寝したり、紙飛行機大会まで始めている。
「なあこれ見ろよ」
隣に座っていたウサギの獣人クロウが唐突に話しかけてくる。
「何?スマホ?授業中だぞ。」
「今先生居ねえだろ」
「それはそうだが、なにぶん私は真面目なもので。勉強しますよっと」
「自分で言うか。学生が勉強してどうすんだ」
どんな理論だよ。学生は勉強が仕事だろ。まあ私も別に真面目ではない。さっきのは建前というものだ
「どうしたの?」
と聞くと、ウサギの獣人クロウが雑誌の記事を見せるので読んでみる
「“使役動物のトレンド、今は犬が大人気”ほう。これが?」
「下だよ下」
「えーと?“前回大注目の土佐犬非魔法士を噛み大怪我、無責任な魔法士への批判相次ぐ。飼いきれず遺棄した者も”」
使役動物というのは、使い魔の事だ。
古来の魔法士は動物を使役していたと考えられており、それに倣ってサンサネスト魔法学校でも生徒は届け出を出し許可されれば使役動物を連れて来ることが出来るのである。
魔法の扱いに慣れていない生徒、特に一年生のうちは魔法動物でなくネコやネズミ、カラスなど非魔法動物にすることが推奨されており、最近では上記三種に加え犬や蛇、ウサギなど多種多様な動物を相棒とする生徒が増えてきている。
そして動物を飼うにあたっての校則。当然、虐待…例えば体罰は一発アウト。そして体罰に限らず餌やりを2日忘れても一発アウト。どちらも使役動物を飼うことは愚か、退学になるのだ。これを厳しいとぼやく者もいるそうだが、生き物を飼う者の責務であろう。当然だ、と私は心から思う。家で犬を飼っている者だからの意見でもあるのだろうか?いいや、何であろうと当然だ。
「動物は社会人になっても相棒にしている人は多いよね。非魔法士も魔法士も。ただ、魔法動物が暴れた時どうにか出来るのは魔法士だけだから非魔法士は動物限定だ。最近じゃ魔法動物専門のアニマルトレーナーがしつけをして非魔法士でも飼えるよう販売しているところもあるそうだけど、リスクは高いから少ないみたいだね。」
「おう、詳しいな。そうなんだよ。非魔法士でも飼育している人はいるが、今回のそれは魔法士間の流行が原因で人気が高まったのが原因らしいんだ。非魔法士もそれに倣って飼いだしたようでさ。そして、その人気を察知したブリーダーが売れ残りを遺棄する事件も起きてんだよ。」
クロウは眉をひそめ、机上で寝ているクロウの使役動物、ネズミのグレースを見つめる。
「…なんかよー、嫌だよな。そもそも使役って言い方が嫌えなんだよ。俺達は相棒だ。主従関係なんか無い。」
「すまん。ちょうど今心の中で使役動物って読んじゃったわ」
そういうと、クロウが怪訝な顔をする。
私の愛犬スピンは飼い犬で、私は飼い主だ。だけど、動物言語学に長けた彼とグレースの意志疎通する様子は、使役というより相棒だ。それに私も、スピンを使役ってのはしっくりこない。ただの家族だ。そこに人か犬か、犬を人間社会で飼うときの「責任としつけ」が伴い上下関係があるだけで。
ぼーっと考えていると、クロウが続ける。
「でもよ、こんなこと言うと『気にしすぎー』とか『面倒臭いー』、挙げ句の果て『良い子ちゃんぶってる~かっけー!』とか茶化されるしよ。俺、優等生とか聡明とか、そういうキャラじゃねえし。」
「クロウは勉強苦手だもんね」
「うるっせえ!……それに善人でも優しいってキャラでもねえし、そう思われたくもない。でも誰かに言いたくて朝から気がたっててよ。お前、犬飼ってるって言ってたし、からかうとかも無さそうだから、聞いてみたんだ。」
初日の式典でも暴れてたもんな。確かにそういうキャラとはほど遠い。むしろ式典でのあの様は、動物をいじめて遊んでそうな印象を受けるだろう。
「んーどうにかしたいけど出来ない無力さを感じるね。何か活動でもしてみる?私の犬、愛護センターで引き取ったんだよ」
「…俺達学生だろうが。出来ねえよ。それに、根本をどうにかしないと。」
「そうだな。……」
「………」
「………どうすれば良いんだろう」
キーンコーンカーンコーン…
キーンコーンカーンコーン…
チャイムの音だ。授業が終わった。
と、魔法薬学担当のミラー先生が入ってくる
「貴方達!お疲れ様でした。さぞ頑張ったことで…ってコラーッ!貴方達何してたの!紙飛行機なんて作って!楽しそ…じゃなかった、自習時間ですよ!全く…顔は覚えましたからね、次回覚えておくように。解散!」
飛行機大会の盛り上がりが先生の目を引き、居眠りしている生徒は起きる時間を、クロウと私はスマホを隠す時間が稼げ怒られずに済んだ。
次の授業、クロウは動物言語学、私は変身術を取っている。
「結局答えは出なかったなぁ…。社会問題をたった二人の生徒がたった一コマで解決できるわけないと言えばそうなんだけど…」
こういう諦めで、世界は回っているのかな
そう考えると、何だか虚しくなった平日の昼
もどかしい思いを抱え、変身術を行う第三教室へと入る。
数年後には、私もなにか出来る人になっているのだろうか。こういうとき、何て言うんだっけ
「出来る出来ないじゃない、やれ!」ってやつだ。そうだよね。考えてるばかりじゃなく、一歩一歩進まないと。そしたらきっと、何かを成し遂げることができるはずだ
心機一転、授業前の予習として、教科書に載ってある「尻尾の生やし方」をやってみる
「よーし、心の中で強くイメージして、念じて、杖を…」
「コラーッ!ジン・フェニックス!一年が習ってもない変身術を使ってはいけませんとあれほど言いましたよね?」
ミラー先生が入ってくる。変身術もミラー先生の担当だったな。焦った調子で私の杖をとりあげる。
「去年なんか学年の半分が羊になって一週間過ごしたんですよ……罰として放課後魔法薬の栽培に使う肥料を運ぶように!」
張り切りすぎたようだ。
しぶしぶ返事をすると、授業開始のチャイムが鳴った
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