嫁の間男がトラックに轢かれてTSしたらすごく可愛い件について

園業公起

第1話 間男ちゃんも嫁も慰謝料を払う気がない

 家に帰ったら間男と嫁がアンアンしようとしてた。もちろん俺はブチ切れた。だからこの後に起こったことは当然俺のせいではない。


「まてごらぁ!」


「ひぃ!」


 真昼間の街中、裸で逃げ出した間男を俺は追いかける。裸足のくせになかなか足が速くてイラつく。ついでにいうとイケメンなのでさらにムカつく。


「ぜったいに逃がさん!」


「ゆ、許して下さい!」


 間男はそろそろ体力の限界のようだ。やっと追いつける。そう思った瞬間だった。


「あっ」


「え?」


 何の前触れもなく現れたトラックが間男を轢いた。


「ふぁ?!」


 そして間男を轢きづりながら、トラックは走り続けたが、バランスを崩して横転してガードレールにぶつかり。大爆発したのだった。


「え、ええ?!うそだろ?!え、えーっと!警察?!救急車?!わからん!とりあえずなんでもいいからこいやー!!!」


 とりま救急車に電話すると消防やら警察やらのサイレンと共に救急車もやってきた。俺はその場で警察の事情聴取を受けながら、間男?らしき黒焦げの物体を運んでいった救急車を見送ったのだった。


















 2023年ももうすぐ終わり!!だが間男はトラックの炎につつまれた!だが生きていた!だが重傷のようだった!だから病院に行った。


「ひぃ!だ、旦那さん!?もう、追いかけないでぇ!トラック怖いよぅ!」


 なんと病室にいたのは、絶世の美女だった。


「すみません。部屋を間違えました」


 すぐに病室から出て、目的の部屋を探す。だが間男が入院している部屋は間違いなくここだった。


「あれぇ?でもなんかさっきの女は間男に似てたかな?きょうだいか?うん?情報間違えた」


 へぼな探偵が間男の妹の入院先でもキャッチしてきたのか?よくわからないがもう一度病室に入る。すると病院着を着たさっきの美女が床に土下座していた。


「このたびは奥さんをNTRってしまって申し訳ありませんでした!」


「なーにいってんだおめぇは?」


 女が顔を上げる。うるうると瞳に涙を溜めて、俺を見上げている様はなんか可哀そうなやつに見える。でもすげぇ美人。あと病院着の隙間からおおきなおっぱいの谷間が見える。


「いやNTRかましたのは間男君であって、お前じゃないよね?お前はあれ?間男の妹さんとか?」


「え?オレが奥さんを不倫に沼らせた間男ですけど」


「いやお前女じゃん。ていうか沼らせたとかいうな腹立つから」


 俺がそう言うと女は首を傾げる。そしてはっと何かを思い出したようで。


「すみません。実はトラックに轢かれた時に積み荷の謎の薬品を浴びたせいで、Y染色体そのものを失った後に、全身の細胞がX染色体を一斉にコピーされてオレの性染色体はXX型になってしまったのです」


「わかりやすく言え。意味がわからん。つまりなんだって?」


「トラックに轢かれたら、女の子になっちゃいました!」


「意味わかんねーよバーカバーカ!もっとまともなうそをつけ!間男はどこだ!?庇ってるんだろう?!出せ!出せ!!」


 俺は女の胸倉をつかんで前後に降る。


「ほんとなんです!信じてください!」


「信じられるかボケー!」


「あのすみません。旦那さん。ちょっといいですか?」


 いつの間にか俺の隣に白衣を着た医師がいた。彼は俺に分厚い書類を渡してきた。


「何これ?」


「そこの患者さんの診断書です。極めて、いいえ、全世界で初めてそこの患者さんは遺伝子レベルでの性転換が発生しました。彼は、いいえ彼女はいまやまぎれもなく女性なのです」


 そんなことを言われても納得ができなかった。俺から間男を隠すために病院が間男に買収でもされてんのかと疑った。


「これまじ?え?まじで?」


「今度学会でも発表されますし、政府にも報告しました。今は信じられませんでしょうけど、事実です」


「やばぁ。頭が頭痛で痛い。帰っていいですか?」


「お大事に」


 医者に見送られて、俺は病院を出ていった。そしてのちにニュースが流れて、政府の官報にも間男の性転換による戸籍の性別の書き換えが発生したことが知らされ。まじで間男が女になってしまったと受け入れるしかなかったのだった。








 そして俺は間男、改めなくてもいいや、間男ちゃんを呼び出して嫁を入れて面談を行うことにした。場所はカラオケボックス。誰かが泣こうが、俺が怒鳴り散らそうが、周りに迷惑を掛けないという点での配慮だ。


「いつから私たちが浮気していたと知ってたの?」


 最初に口火を切ったのは嫁だった。


「あ?お前らが絡んでたあの日まで知らなかったけど?」


 俺が正直にそう言うと嫁は涙を浮かべて俯いた。美人な分、変に迫力がある。


「あなたは私が他の男に抱かれててもその変化に気がつかなかったのね。もう私のことを愛していないのね…」


「なんか俺が悪いみたいな言い方やめてくれません?イラっとするんで!」


 ぶん殴ってやりたいこの言い分。浮気ぶっこいていたくせに自分が被害者面するのまじで思考がイミフである。


「旦那さん…ひどいですよ!奥さんはサインを出してたのに!それを無視するなんて!あんまりだ!奥さん可哀そう!」


 間男ちゃんは嫁を肩で抱いてよしよしと慰め始める。何これ茶番?それとも男子をつるし上げる学級会か何かなの?


「おめぇが浮気相手だろうが!反省くらいしてんのかよ!!」


「オレは!奥さんが寂しそうだったから!慰めて一緒にいてあげただけです!ていうか女の子相手に怒鳴るなんてひどくないですか!!オレ女の子なんですよ!」


「腹立つわー!くそ!なんなのこの状況!?男ならこういう時は神妙な顔してるもんだろう?!なにひらき直った顔してるの?!」


「むしろオレだって被害者なんですよ?!あなたに追いかけまわされたせいでトラックに轢かれてすごく痛かったんですよ!わかりますか?!麻酔が切れた瞬間、なんかすごく息苦しい上に、それだけじゃなくてなんかすごく体のあっちこっちが痛いの!わからないんですか?!」


「被害者ぶるんじゃねぇよ。トラックに轢かれたのはお前の自己責任だ」


「裸で追いかけまわされたのに?!オレのせい?!すごく恥ずかしかったんですよ!オレ、女の子なんですよ!!」


「あの時は男だっただろうが?!このバカ!ばーか!」


 意味がわかんない。なにこの異次元の会話。俺がネットで予習してきた情報では嫁は泣き崩れて俺に許しを請い、間男は慰謝料で破滅するはずなのに、目の前の二人はなんか全然違う理由でヒートアップしてる。ウザい。端的に言ってウザい。


「とりあえずお前ら慰謝料払えよ。あと離婚に応じろ。財産分与はなしな」


 俺がそう言うと嫁と間男ちゃんは神妙な顔になった。やっと事態の重さがわかったらしい。


「わかったわ。私は仕事をやめて家事に専念するわね。家事は年収でいえば1000万円の価値があるってテレビで言ってたわ。それで慰謝料を慰謝料代わりにするわね」


「か・ね・で・は・ら・え!!なにその戯言?!家事が1000万円も価値があるなら世の中みんな家事だけやっとるわボケ!あと離婚するっていったよね!」


「離婚?私はまだあなたを愛してるのに。あなたはやっぱり愛してないのね…うう、うわーーーん!」


 嫁はテーブルに突っ伏して泣き出す。すると間男ちゃんが嫁の背中をさすって、ぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫大丈夫。今は頑なになってるけど、旦那さんはちゃんとあなたを愛してるはずだから!ていうか旦那さん!いきなり離婚なんて!あんまりですよ!!」


「いきなりか?!いきなりだと思ってんのか?!浮気は十分な離婚事由になるんだよこのバカ!こういう会合開いてる時点でそれくらい言われる覚悟くらい持って来いよ!!」


 くそ!慰謝料の話ははぐらかされるし、離婚の話は受け入れる気がないようだし、とりあえず嫁は放置しよう。間男ちゃんからむしれるものをむしらないと。


「で、お前は慰謝料、いつ払ってくれるの?」


「え?」


「は?」


「オレ、女の子ですよ」


「だからなに?」


「女の子なのに慰謝料払う義務在りましたっけ?憲法にはそんなの書いてなかったですよね?」


「民法だよバーカ!ていうかそもそも不法行為による損害は男女関係なく賠償する責任があるんだよアホ!」


 それを聞いて間男ちゃんは顔をムッと歪める。いっちょ前に怒っているらしい。


「女の子がちょっと悪戯したくらいで、本気で怒るとかダサくないですか?」


「やらかした時は男だっただろうがこのバーカ!矮小化してんじゃねーよ」


「でももうオレ女の子だし、償う必要ないですよね?あなたは嫁さんが女と浮気したとしておこりますか?」


「む?!たしかに百合エッチならセーフな気が…。いや騙されねーからな!浮気は浮気だから!」


「ねぇあなた。よく考えたら、彼ってもう彼女なのよね?」


 突っ伏していた嫁が顔を上げる。その顔にはニヤリとした笑みが浮かんでいた。


「つまり私が浮気した男はこの世界にはもういない。そもそもたしか浮気の定義ってTNTNが挿入されたらよね?でももうこの世界に彼のTNTNは存在しない。つまり浮気した事実ももはや存在しないと言っても過言ではないのではないかしら?」


「何その頭の悪い屁理屈?俺こんなやつと結婚してたの?すごく切ない気持ちになってきた」


「それに私たちってプラトニックな関係でTNTNはまだ入れてなかったからセーフじゃないかしら?私なんだかんだとあなた一筋だったの。経験人数も1のままよ」


「いや。いままさに入れようとしていた瞬間を目撃した俺の心の痛みを返してくれないか?ていうか探偵さんの調査でお前たちがなんどか過去にラブホに行っていた証拠は集まっているんだけど。どう考えてもやってるでしょ」


「でも彼は童貞で緊張してたたなかったの。ねぇあなたからアドバイスしてあげてよ。TNTNが立たない男を前にすると女は死ぬほどイラつくって」


「え?あのときオレが焦ってた気に優しく気遣ってくれたの嘘だったんですか?!本当はイラついてたんですか?!ひどい!あんまりだ!!」


 間男君まさかの童貞。なんだこの徒労感…。でもなんだかんだと言って、嫁と間男が今まさに合体しようとしていた瞬間の光景は俺の心を苦しめるのだ。これから俺は一体どうすればいいんだろう?この心の痛みと俺はどう向き合えばいいんだろう?そしてそもそも女となった間男ちゃんに俺はどう接すればいいのだろうか?先行きは真っ暗闇だった。


 

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