第二章 これはクソゲーだ
16.『森に帰そう』
湖に落ちた俺たちは、そのまま岸まで泳ぎ、水に濡れた服などを脱いで木の枝に乾かしていた。
装備品を全て脱いでも、初期から履いているクリーム色のブーメランパンツが大切なところを隠してくれる。ノアの薄手の衣の下にはクリーム色のキャミソールとかぼちゃパンツが現れた。
ちなみに、ブーメランパンツの下を覗き込んだが、どの角度から光を当てても真っ暗な暗闇が広がっていた。ゲームキャラクターたちは股間に闇を飼っていたのだ。
「これ……どうなってんだ……?」
つくづく謎である。リアルとゲームが混ざるとこんな事になってしまうのか。
岸辺の切り株には、同じくクリーム色の下着を着た少女──ノアが金髪に染み込んだ水を絞っていた。
ふと、目が合う。
「やんっ、ミナトさんのえっち」
「いや、お前そういうキャラじゃないだろ」
そういえば確認していなかったな、とノアのステータス画面を表示させてみる。
──────《ステータス》────────
【ネーム】ノア
レベル :120
[アクティブポイント:480]
HP(体力):2406
MP(精神力):872
STR(筋力):0
INT(魔力):1120
DEX(器用):0
AGI(敏捷):0
VIT(耐久力):0
LUC(幸運):740
【スキル】
・《光魔法──初級九級・習熟度G》
・ライトアロー
・『ライトカッター』
習得条件
魔力:10以上。
熟練度F以上。
・???
【装備】
武器:無し
頭:無し
胴:無し
腰:無し
足:無し
アクセサリー:救命の護符
────────────────────
「いや、ステ振りがおかしすぎる!」
0ステータスが四つ!
ゲームならばそれでも良かったかもしれないが、現実となったここでは、色々と不便がありそうだ。
ノアのステータスは近接戦闘に関わってくるようなものが軒並み欠損している。
これはゲーム時代からそうだった。
『光の聖女ノア』は切った張ったの近接戦闘にはめちゃくちゃ弱いが、彼女の真骨頂は遠距離主体の魔法戦である。
脅威の魔力と幸運によって、魔法攻撃のクリティカルを連発して瞬く間に敵の屍の山を積み上げていた。
……しかし、これはどういうことか。
スキルにはノアの真骨頂である『光の聖女』としての《固有魔法》がない。代わりに初級魔法がその欄を埋めていた。
俺はノアに向き直って確認する。
「お前って『光の聖女』だよな?」
「はいっ、わたしはミナトさんの聖女ですっ!」
「……」
こいつに聞いたのが間違いだった。
俺の顔に何を見たのか、慌てた様子でノアは両手を振る。
「じ、冗談です! そんなキメラモモンガを見るような顔でわたしを見ないでくださいっ!」
どんな顔だよ。
「わたしは聖女さまのような大層な人間じゃありませんし、そもそも聖女の力は前の持ち主が亡くなると受け継がれるんです。先代さまはまだご存命ですよ」
「え? ご存命?」
知らない設定がポンポン生えてくる。
ゲーム時代では、ノアがパーティに合流する時には『光の聖女』だった。
すでに先代が死んでいる状態でイベントは始まっていたのに……これが現実世界になった影響というものか。
つまり、だ。
「助けるのが早すぎたってことか……」
RTAの観点からすると聖女の固有魔法が使えないノアは、ただの時限爆弾である。
森に帰すべきだ。
「なあ、今助けられたことは忘れてさ。もう一度捕まっててくれないか? ちょうどあそこにオークの巣穴っぽいのがあるから……」
「今、人として最低なことを言われたような気がしましたけれど、まさかミナトさんがそんな事を言うはずないですよね。一生ついていきますから、責任取ってくださいねっ!」
「痛い、痛い痛いっ! 手をぎゅって握るのはやめろ! お前筋力値0なのにめちゃくちゃ力強いな!?」
「愛の力です。家でお父さまに肩叩きしてあげたら、むせび泣かれたこともあります」
「お前の愛はずいぶんと痛いのな……」
ヤンデレクイーンの名を関するだけのことはある。
お父さまには強く生きて欲しい。
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