第7話 希望の百合

「あっ! せや言おうとしてたこと思い出した!」


思い出したら即行動。

それが風花だ。


「おーい! 綾花ー?」

「ん?」

「部屋入るよ」

「ちょっと待ってー」

「無理ー!」

「いや、入るな言ってるのに入るなよー!」

「えー? 良いじゃん!」

「良くないわ!」


今日も今日とて仲のいい2人である。


「てかあんた、BL本読んでんじゃん!」

「だって……もう返さないけんし……」

「なにそれ? 面白すぎでしょ」

「うるさいな、てか何それ?」


風花は大量の漫画を抱えている。


「そうだった、家入る前に言おうとしてたことなんやけどさー」

「あぁ、そうやったね、で何? 思い出したの?」

「うん、百合って教えたじゃん?」

「うん」

「これ百合漫画なんだけど」

「え?」

「読んでみる?」

「え?」


風花は察した。

これは不評だ……布教失敗だ……

と思っていたら綾花の大きな声が鼓膜を突き抜けた。


「読みたい! 読む! ありがと、ねーね!」

(やっぱり、ねーね呼び可愛いな!)


まさかの布教大成功だった。


つ・ぎ・の・ひ


「綾花ー? なんでずっと部屋から出てこないのー?」

「……」

「また引きこもりかー?」

「……」

「入るね……?」

「……」


一向に返事が無いので心配になった風花は扉が外れるくらい勢いよく扉を開く。

鈍い音と衝撃が部屋に響く。


「わぁ! 何!?」

「あぁ……寝てただけか……」

「寝てただけかってなんだよ! 普通だろ!」

「いやあんた、もうお昼の12時なんやけど?」

「しゃーないやん! 百合漫画全部面白かったんだから!」

「え!? もしかしてもう全部読んだの?」

「うん、徹夜で」

(いや、凄いけどさ……)

「あんな恋愛憧れるな〜」

「何言ってんの? あんた今女子だよ?」

「!」


静まりかえる部屋。

先に声を出したのは綾花だった。


「やったー! 最高じゃん!」

「いや……でもリアルで百合ってそんな良いもんじゃ無いよ……」

「え? 楽しそうじゃん?」

(それがもっと複雑なんだって……)

「あ、あぁ……うん、そうだね……」

「どったん? ねーね、なんか暗いよ?」

「そんなことない、ほら! ご飯冷めるから! リビング来なさい!」

「はーい、てか休みの日くらいゆっくり寝させてよー」

「私、今日学校もバイトも無い貴重な休みの日なんですけど?」

「あぁ、確かにー」

「これからはちゃんと起きてね! 夜更かしもほどほどに!」

「あぁ、多分」

「いや! 多分てなんや!」


こう他愛もない話をしているうちにご飯は刻一刻と冷めていくのであった。

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