- 家族の食卓

 一時間ほど経ち。

 

 家族四人はキッチンにあるテーブルを囲み、椅子に座って食事をしていた。

 

 それぞれの前にはご飯と味噌汁とメインの魚料理。他にもサラダや和え物といった副菜が四つ。以前は副菜なんてゼロか、せいぜい一品程度だったのに。どうやら理人が来た事で春子がやる気を出したようだ。再婚して専業主婦になり、時間に余裕が出来たという事もあるだろう。

 

「そうかいそうかい。春之助くんはそんなに良くしてくれているのかい」


 その食卓にて、理人はうんうんと嬉しそうに頷いていた。

 

「そうなんです。お兄さま、とっても優しくて。お兄さまと兄妹になれてよかった」

「いやあ、兄として当然の事をしたまでですよ。フハハハハ」


 にこにこ顔の茉理と、テレテレと後ろ頭をかいている春之助。彼らしからぬその姿に、春子が不気味そうな顔をしている。

 

「安心したよ。春子さんは素敵な人だけど、まずは子供たちだからね。ありがとう春子さん。こんなに素敵な家族を持てて、僕は幸せ者だ」


 そしてその二人を見た理人が優し気な笑みを春子に向けた。途端、「い、いえいえ! 優しい子に育つよう頑張りましたから!」と照れながらも見栄を張る春子。似たもの母子であった。

 

「で、ね? 今度お兄さまとお洋服を買いに行くの。お父さま、行ってもいい?」

「もちろんさ。春之助くんがいるなら安心だよ。けど春之助くん、いいのかい?」

「勿論ですよ。任せてください理人さん」


 ドンと胸を叩く春之助。

 

 春休みが終われば高校生だが、茉理はまだ卒業したての中学生なのだ。この間の顔合わせのような例外は別として、普段から一人で遠出するような年ではない。が、大人の春之助がいれば問題ない。理人はそう判断したようだ。

 

 なお、春之助は理人の事を名前で呼んでいる。流石に年が年なので父と呼ぶのは抵抗があるのだ。理人の方は「いつでもパパと呼んでいいんだよ」なんて言っているが。

 

「そうだ。出かけるならお小遣いを上げなきゃね。えーと」


 立ち上がろうとする理人。サイフを持ってこようとしているらしい。春之助は待ったという感じで手のひらを向ける。


「いやいや理人さん。小遣いなんて。大丈夫です。茉理ちゃんのお洋服はボクがプレゼントしますよ」

「えええ? いいのかい? 流石に悪いと思うんだけど」

「こう見えて社会人ですから。ご心配なく」


 キッパリと断る春之助。父親ぶろうとする理人には悪いが、流石に社会人が小遣いを受け取るなど情けなさすぎる。まあ普段の春之助なら情けなかろうが何だろうが遠慮なく受け取っただろうが。

 

「楽しみ。お兄さま、土曜日、忘れないでね」

「勿論さ。休日出勤だろうが何だろうがぶっちぎって来るよ。フハハハハハ」

 

 おねだりをするような顔で念を押す茉理に、春之助はデレデレとしながらも馬鹿笑いをした。「ホントに大丈夫?」と心配してくる理人だが、中高生の服を買うくらい何なのだ。大丈夫に決まっている。

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