- 出来た! 俺にも美少女な妹が!
近くから聞こえてきた声。
誰だ。関係ないのは黙ってろよ。作戦が狂ってしまったらどーする。春之助は心の中で舌打ちしつつ声の方へ視線を向けると……
「遅れてすみません。あの、これは……」
「!?」
そこには、可愛らしい少女がいた。
長い黒髪に、紫がかった瞳。小柄な体躯。フリルのついた白いシャツに黒いスカートという清楚なその姿は、
(か、可愛い……)
春之助は顔をぽっと赤くした。可愛い。こんなに可愛い子は見た事がない。年下過ぎるのは流石に対象外なのだが、これだけ可愛ければちょっぴり信念が揺るぎそうになる。
「ああ、茉理。遅かったね」
「ごめんなさいお父さま。ちょっと道が混んでて」
「!?」
春之助は衝撃のあまりのけぞった。
お父様? このオッサンがお父様? 全く似ていないんだが。いや、育ちというか空気みたいなのは何となく似てるが。
「茉理。ご挨拶しなさい」
「あっ、はい。はじめまして。
にこり笑みを浮かべ、ふかぶかとお辞儀をする茉理という美少女。動きの全てから気品が感じられる。見た目もお嬢様ぽいが、振る舞いもお嬢様っぽい。
何だ。何なのだ一体。立ち上がり、茉理の前に移動してお辞儀を返している母に対し、春之助はギギギと鈍い動きで視線を向ける。
「か、かかかかかーちゃん、こ、こここここ……」
「何ビビッてんだい。昨日言ったでしょーが。相手家族と会うって」
いや、聞いてねーよ。
お相手家族とは聞いたような気がするが、少なくとも娘がいるなんて聞いてない。もうちょっと具体的に言っとけや。再婚という一大事なのに、息子に対する配慮がなさすぎる。相手家族の事を言ってなかったり勝手にガンプラを捨てたりと。
そんな不満を心の中で抱きつつも、春之助は再び茉理の方を見る。
「?」
視線が交わり、こてんと首をかしげる茉理。ズキューン! と撃ち抜かれる春之助の心。そのままぽけーっとしていると、茉理は何か考えるように「んー」と上を向き、下を向き――
――クスリ♪
「茉理?」
「あっ、ごめんなさいお父さま。あの……春之助さんですよね? 会えるのを楽しみにしてたんです。私の、お、お兄さまになってくれる方に」
「!?」
照れくさそうに言葉を紡ぐ茉理。あまりの可愛らしさに春之助の頭がぱーんとなる。
お兄様。この美少女のお兄様。なんていい響きなんだ。こんな素晴らしくも嬉し喜ばしい言葉がこの世界にあったとは。ちっとも可愛くないイトコに兄と呼ばれた事はあるが、その時とは大違いである。
ぱーんとなった頭がらんらんるーに変わる春之助。頭の中は既にお花畑。お花畑の中を妹(予定)と楽しそうに追いかけっこをしていた。
ぱかーっと口をあけっぱなしにして嬉しボケをしている春之助。そんな中、理人が眉を落としつつも口を開く。
「いや茉理。まだ決まったわけじゃないんだ。どうも春之助くんは納得してないみたいでね。流石に話が早すぎ――」
「はじめまして妹よ。木原春之助です。ボクも会えるのを楽しみにしてました」
瞬間移動したと思えるほどの速さで茉理に近づき、きゅっと手を握る春之助。あまりにも早い切り替えにして意見のひるがえしっぷり。周囲の人々がずっこけたり「さっきの涙はなんだったんだ」と非難したりしている。
「? いや、茉理は娘じゃなくてむす――」
「お、おほほほほほ! よかったわぁ! 茉理ちゃんと気が合うみたいで! それじゃアンタも再婚に賛成って事でいいわね!?」
「うん! ありがとうおかーさま!」
大声で同意を求める春子。何かを言いかけた理人の声を遮るように。
春之助はとっても嬉しそうな顔で返事をした。もはや嫌がらせの事もガンプラの事も頭には無い。あるのは妹との楽しい日々(予定)だけだ。こんなに可愛い妹ができるとか。最高、再婚最高。
――くすくすくす♪
「ん?」
何やら笑い声が聞こえた気がする。声の方を向けば、下を向いてもじもじとしている茉理の姿。きっと照れているんだろう。可愛い。可愛すぎる。春之助の心がきゅんきゅんと締め付けられる。
こうして出会った二つの家族。春之助が賛成に回った以上、もはや反対する者はいない。
理人に茉理。春子に春之助。四人は和やかな雰囲気で
春之助だけが知らない、とある秘密を残したまま。
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