ミカドなやつら~わからせバトル! 不良系サラリーマンvs小悪魔男の娘~

ハートフル外道メーカーちりひと

第1話. 大人げない男と美少女な妹(?)

 この場所は今、緊張に包まれていた。

 

 お昼前のオフィス。課ごとにおおよそ六、七席ずつの“島”を構成しており、スーツ姿のサラリーマンやOLたちが働いている。普段は和気あいあいとしているのだが、今は皆、少し落ち着かない様子であった。

 

 彼らが気にしているのは一点。課ごとの島から独立した、窓際にある広めのデスク。いわゆる部長席だ。


「だからね、いつも言っているようにだね。君には緊張感というものが……」


 その部長席ではぐちぐちと説教するおじさんの姿。高年齢のおじさんで、体は普通体形なものの、髪は年相応に薄い。見た目からして部長な男であった。かなり長い事話を続けているのだが、未だに説教は尽きない。

 

 そしてその部長席の前にはスーツ姿のサラリーマンが一人。黒髪に、かなりの長身。さわやかさを感じさせる容貌をしているが、今はそのさわやかさは曇り果てており、部長に対し「すみません」「気を付けます」とぺこぺことしている。

 

「はーっ、まだ終わんないのかな。いい加減にしてくれよ」

「木原さん、目をつけられてますからねぇ。ちょっと会議に遅れただけなのに。しかも客先都合で」

「先輩可哀そう」


 少し離れた席ではヒソヒソと話している男女の姿。眉をひそめており、「早く終わらないかな」なんて呟いている。部長に聞こえないよう小声で。

 

 そうして十数分後。「以後気を付けたまえよ。戻ってよろしい」との一言でようやく話が終わる。説教を受けていたサラリーマンは「すみませんでした」と一礼し、へこんでいるのか顔を伏せたままオフィスを出ていく。

 

「私、慰めてきます」

 

 すると、一人のOLが後を追う。ポニーテールをなびかせて小走りし、廊下へと出たところ、給湯室へ入る男を発見。彼に続き部屋に入ると……そこには、急須からお茶を注いでいる男の姿があった。




 ――但し、生ゴミ入りの三角コーナーを間に挟んで。




「せ、先輩、何してるんですか?」


 顔を引きつらせ、意味不明とばかりに問いかけるOL。あんなもの注いでどうするつもりなのか。せっかくの高い茶葉を無駄にしてしまっている。まさか飲むつもりではあるまい。

 

 で、問いかけられた男の方といえば。OLの存在に気づいた彼が輝かんばかりの笑顔を向けてくる。

 

「おお、美月ミツキ。いや、有難い説教をして頂いた訳だからな。せめてお茶でも淹れてやらねば」

「けど、それ……」

「大丈夫大丈夫。渋ーいお茶だから。部長バカ舌だし、気づかれねーって」


 トン、とお盆にお茶を乗せ、ニヤリと悪い顔をして給湯室を出ていく男。オフィスから「部長! ご指導ありがとうございました! 喉が渇いたでしょうから、お茶をお持ちしました!」「おお、気が利くじゃないか」の声。

 

 

 * * *

   


 そのさわやかな容姿とは真逆な事をしでかした男。

 

 彼の名は木原キハラ 春之助ハルノスケ。企業向けにIT関係製品を卸す会社の営業マン。ちょっぴり女性にモテないのが悩みのアラサー男性である。

 

 短めの黒髪に、薄い黄金色の瞳という神秘的な瞳の持ち主。整った容貌で、身長もかなり高い。普通、これだけの容姿をしていればモテないほうがおかしい。だが……。

  

「でよぉ、部長ってばぜんっぜん気づかねーでやんの! 濃い物ばっか食ってっからそうなるんだよ。馬鹿だよなー!」


 終業後。居酒屋にて。


 コーラ片手にゲラゲラと笑う春之助の姿。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた終業後のサラリーマンスタイルの。下品な笑い顔がその整った容姿を台無しにしていた。

 

 そして同じ座敷にいるのは男二人と女一人。一人は同僚の夏彦、一人は先ほどのゴミ茶事件を目撃した女後輩の美月、一人はダラッとした感じのサブという後輩。三人は「あのな……」「部長、お腹壊しちゃいますよぉ」「流石センパイ、おつぼね感パネェっす!」と三者三葉の様子を見せていた。

  

「あー、スカッとした。テメーらも真似していいぞ。千円くれれば」

「はあっ!? 何でお金取るんですか!?」

「フハハ。特許料を知らんのか。女だからって一文たりともマケんぞ」


 さらに調子こく春之助。美月が唖然あぜんとした表情になる。馬鹿笑いをする春之助に「そもそもやらねーよ」「流石センパイ、金に汚いっす!」と突っ込む男二人。それを聞いた春之助はソッコーで男後輩を叩いた。次いで「調子乗んなサブ。今日テメーのおごりだからな」なんてヘッドロックを決めつつ金に汚い事を言った。

 

 品がなく、金に汚く、おまけにワガママ。三十手前といういい年なのにちっとも落ち着いていない。そんな存在が春之助という男であった。こんなのがモテるはずがない。正体を知った途端、女性は離れていくのが常である。

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