エオリアル211

Dポン

第1話

20xx年。

virtualdiveゲームが開発されてから数年。


私は昔、信じていた友人に裏切られ、環境の変化もあってか現実から逃げたいが一心で部屋に籠り現実での人間関係を断ち様々な種類のゲームへ逃げていた。


それは単なるファンタジー物であったり、ゾンビ物やホラー物。果てには海外の一部でしか取り扱ってない口には出せない内容のゲームまで網羅し、終に出会ったのはこれ。


【エオリアル211】


こいつは最高のゲームで、人口2000万を越えるプレイヤーと同時接続による未来のテクノロジーと古臭い銃で殺し合うゲーム。


簡単には聞けば何ら魅力も無いそこらに溢れる微妙ゲーに聞こえるだろうが、なんと言っても【出来る事の幅が違う】


完璧に計算しつくされた演算システムで全ての法則は現実その物。壊したオブジェクトは物理法則に従い違和感無く崩壊し、説明のつかない高度なAIで生成されたNPCは独自の性格を持ち派閥を作る。

時にはプレイヤーに攻撃を仕掛ける場合もあり、実際北部に拠点を置くクランメンバーが3000人を越え常時半数はログインしている大規模クランが壊滅させられた事件もあったくらい。


私も発売当初に参加して直ぐにNPCに捕まりリアルで5日牢獄に監禁された時はブチ切れてゲームを売りに行こうとしたくらい、陰湿で狡猾なNPCもいるのを知っている。


だから――――――「うぉぉぉぉぉお!!」


とあるビルの一室、突如として書類棚の間から現れた黒服の男の奇声と共にSMG放たれる大量の弾丸を書類棚をすり抜けるように歩き避ける。


無数の弾丸によって巻き上げられ、粉々になる書類の紙吹雪を目眩ましに手首の腕時計型小型マルチコントロールパネルを触り周囲に溶け込むステルス光学迷彩を起動する。


......しかし紙吹雪が舞うこの最中で光学迷彩を使用するのは悪手、黒服は不自然に姿を消した私に気付き光学迷彩を使用したと判断、死角を消すべく壁と壁の隅へ移動し特徴的な形をしたブルパップSMGを両手で構え、全神経を紙吹雪へ集中する。


「ふぅ....」(......いくらお前が優れた殺し屋であろうと、撃てば死ぬっ!)


「さぁ!出てこっ


次の瞬間、背後つまり壁の裏から飛び出す超高温の真っ赤に染まる刃が黒服の喉を貫通し、一瞬で絶命する。


「......その判断力......流石CTGのエージェント」


静かに感嘆にも似た言葉で誉め、ナイフを黒いスーツに隠した後ろ腰の鞘に納め様々な機能を内蔵した腕時計【MPC】を見る。


残り3分。早く脱出しないと巻き込まれてしまう......エレベーターは...当然無理か。西階段東階段も見張りが居るだろうし、行けば間に合う見込みはゼロだろう。


.....ならどうするかは決まっている。


胸元の黒のチェストリグから髪止めよりも小さい長方形の平べったいアイテムを取り出し、銃弾も通さぬ外へと繋がる大きな強化ガラスへ投げ付ける。


【CC.S-U7】

【重光工学社】が手掛ける超小型粘着式テルミット爆弾。特殊な薬液を加え加工されたそれは約4052℃と言う高温を一瞬の内に放ち、戦車の装甲すらドロドロに溶かす。


ガラスへ引っ付いたU7は直ぐに超高温の熱を発生させ瞬く間にガラスを溶かし、歪な穴を残す。


その私は穴に向かって躊躇なく飛び込んだ。


途端、全身は不快な浮遊感に襲われる。

眼前には狭々しい高層ビルが乱立し下には無数の人影が在り、誰もが武装し次々とビルの中へと入って行く。


私はその幹部を殺され怒りに満ちたおっかない集団を見下ろし、小型パラシュートを使い立体駐車場へと降り立つ。これで異変に気付いた人が直ちに駆けつけるだろう。

完全サイボーグ化か重強化スーツを着てればパラシュート要らずだろうけど、今回は使っていないから仕方ない。


騒ぎを聞き付けたアンチステルス持ちなら流石に不利な状況になるので急いで駐車場を抜け、予め目をつけておいた下水道へ入る。


この下水道はゲームなのに汚い臭いから態々使うプレイヤーもいない絶好の逃走経路だ。


鼻が曲がりそうな程臭くジメジメとした地面に降り立った瞬間MPCからアラームの音がなり響き、途端大きな地鳴りが響き、下水が服に掛かりそうになる。


「うわっ!?」


地上で何が起こったのかと言うと、予めビルの重要な支柱にしかけていた時限爆弾...もとい超高圧水時限兵器【WJC-GV777】が作動し支柱を極限まで圧縮した水の刃で『切り落とした』のだ。

結果、ビルは刀で切られた藁の如くに滑り落ち辺り一面を巻き込みながら倒壊。恐らく数百人のNPCとプレイヤーが巻き込まれたであろう。

最早悪魔の諸行と言うのも生温い道徳心カスのする事である。


だが数多のプレイヤー、NPCから構成されゲーム最大規模の組織と言われる【P.N国際執行隊】

から要警戒としブラックリストの最高位に入れられている彼女『ジャガーノート』こと『もちもChimpanzee』からすれば何の変哲もない日常なのである。





「ふふっ」


脱出経路に予め用意していた高性能強化服に着替え、真っ黒の頭部全体を隠し守り戦闘を有利に運ぶ機能をこれでもかと積んだフルフェイスヘッドガードを装着。

更に軽量特殊合金を入れたタクティカルベストに一人で万事を遂行する為キャリーツールやダンプポーチや救急ポーチ、マルチポーチなど装着し色々放り込んだ軍用バックパックを背負う。全て暫く身を隠し逃走する為の装備品である。



いやはやしかししかし、久々にヒヤヒヤした仕事だったねぇ。

CTG幹部の暗殺で忍び込み任務達成した所までは良かった。けれど妨害していたカメラが謎の復活をしてCTGのエージェントやらプレイヤーやらが集まり始めた時は焦ったよ。


けれど無事無傷で完璧に脱出できたんだ。喜ぶとしよう。



ご機嫌に数分間目的の出口へ向かって歩いていると、いつの間にか下水が干からび、とても現在進行形で使われている様に思えない景色へと変わって行く。


コンクリートで固められた壁や天井や床にはヒビが入り苔むして行く。

合間にある鉄格子や扉も酷い錆が差し、風化している部分もあるくらいだ。


「......?」


なんだこれ。一週間前下見に来た時はこんな事になってなかったよね?

もしかして出口間違えたとか?


疑問に思いつつも兎に角出口へ進み、外の光が見え迷わず外に出る瞬間。


一瞬身体に悪寒が走り言い知れぬ違和感に眉を潜ませるも、無視して外へ出ると......


「......え?」


国随一を誇る商業施設のビル郡所はどれも崩れ、崩壊し、見るも無惨な風景となっていた。


「な...んん......?」


なんだこれ?ビルは?川に渡る大きな橋は?右手に見えるはずの工業地帯も見事な森林地帯になってるし......向こうに見えた山脈も無くなってる。


まさかと思い恐る恐る後ろを振り替えると、先程まであった下水道は瓦礫に埋まり見るも無惨な姿になっていて唖然とする。


「いやいやいやいやいや.......ちょっと可笑しくない?なんで?え?ん?......んんぅ?」


混乱しつつも一先ず現在地を確認する為急いでMCPからマッピングシステムを起動するが、そちらにも不可解な部分があり、固まる。


マップが映らないしログアウトボタンやオプションも...ゲームシステムに直結するカーソルが全て無くなってる......無くなってるぅ!?


まってまって、じゃあどうやってログアウトすればいいの!?私はこの後新作ゲーム買いに行くつもりだったんですけど!?


他にも色々ポチポチと弄くり回すが解決に繋がる訳も無く、ただただ焦りや不安と若干の浮遊感が身体を包み、その場にへたり込む。


呆け口を開き、あれやこれや原因を考えるが専門家でもない素人が足掻いた所で原因なんぞ分かる筈が無い。


すると、とある事に気がつく。


「メール......?」


そう、唯一メール一覧だけは消されずに残っており数分前に新着メッセージを受信していたのだ。


急いで開くと、


宛名には【開拓者】

内容は『生と死の現実へようそこ被検8099451番。本体との接続は絶たれ新たな肉体へと移り変わりました。恐怖ある死を満足行くまで体感して下さい』


と短く書かれてた。



なにこれ。説明が抽象的過ぎて正確に捉えれないんだけど......被検体...新たな肉体...恐怖ある死......。

とどのつまり、私は実験体にされて...死ねばリアルでも死ぬ身体にされたって事...とか。


「いやぁ、あり得ないでしょ」


そもそもVR技術が発展した昨今、小説や漫画で使われるゲームに閉じ込められる何て馬鹿げた事象が発生する訳が無い。


そう無いのだ絶対に。


「......」


でも、今の状況から考えるに常識が通用しないのは確かで、脳ミソ吹き飛ばされてもリスポン出来る確証も無いのも確か。


死、と言う言葉に身体に染み込み忘れたい記憶が滲み出す。


途端、急いでステルス機能をONにして射線が多く安全とは言え無い場所から急いで離れ、水溜まりや泥地を避け僅かな草や障害物に触れぬよう近くの廃墟ビルへ入る。


使い慣れた愛用のPDW【FN-P90H】を近代改修し多彩な拡張機能施した古いながらも信頼性の足る改造を施したお気に入りの銃を強く握り、暗がりにフラッシュライトを当て、壁沿いに障害物を盾にクリアリングを進める。

埃被った受付カウンターを抜け、扉の裏にアンブッシュの有無を確認し従業員待機室へ入り周囲を確認した後ゆっくり鍵を掛けた。


......入り口の案内図を見るにここなら非常用出口に直結していて脱出経路も複数ある。外よりは安全かな。


「しかし」


ドえらい埃の被りよう。備品の劣化も激しいし所々雑草も生えちゃって......けれど建物の劣化は激しくとも完全崩壊していないから、放置されて数十年か其処らか。


情報を得ようとロッカーの中を漁るがあるのは役に立たないゴミばかり。

情報が抜けそうな電子機器は...損傷が激しいし駄目かな。


ふむ。どうしたものかな。


数秒、鼻の下を指で押さえ思いついたのは極めて単純、腕時計を確認する事だと気が付きため息を出す。


バカだ私。焦り過ぎてバカになってる。


改めてMCPを開き西暦の確認をすると2444年10月と表示され、驚く。


400年も時が進んでるっ!そりゃ何もかも変わってる筈。でもその割に技術が進んで無いと言うか...ゲームだしと片付けるのも可能だけど納得いかない。400年前は堅固な首都と名高かった【アパレスティア】がこうまで無惨に姿を変えているのも。


「ふむ......」


更に端末を触り国際衛星の起動の有無、惑星起動に商船が停泊していないかも確めるが、どうやらどれもが機能して無いのか拾えない。

だが、不安定だが私個人が所有する個人武装輸送艦の受信しており、無事だと確認でき少し安心する。


だけど軌道艦隊や商船が一切見当たらないのは不思議だ。もし何らかの理由でテクノロジーが衰退してロケット工学や軌道艦隊までも消失するなどあり得るのかな?......人類が絶滅したならあり得るか。


......とすれば滅ぼした原因を逸早く探るのが先決かな。バイオ兵器によって滅んだのだとすれば対策が必須だし、人口知能の反乱って線も無くは無い。もしくは現在進行形で戦争中とか?


「ふむ」


タクティカルベストの下のシャツの胸ポケットから紙のメモとペンを取り出し、背負ったバックパックの中身を確認、大まかな指針を書き記す。


1.アパレスティアの崩壊原因を探る。

2.私造艦【ケツァル】との確立した通信を得る。

3.生存者とコンタクトし可能なら食料や弾薬の安全な供給口を探る。

4.怪しければ即射殺。ただし被検体Noから私と同じ境遇の人もいるかも?


「簡単にこんな感じかな」


幸い食料は幾つか持っているし、錠剤型栄養剤も十分あるし.......うん、3週間は持ちそうだけれど水が心もとないかなぁ。


ゲーム内では食料水分ゲージがあり枯渇しても死にはしなかったけど、飢餓のリアル具合と言えば好んで味わいたく無いくらいリアルだったし、最悪を考えるなら十分確保し続けるべき。


残りの疑問は追々判明するだろう。

今は兎に角、動き、調べ、知る事に全力を尽くそう。


荷物を纏め背負い、扉を前に大きく深呼吸し張り詰める自身の心を強く抑制しながら外へ出た。


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