第38話…初めまして

「この辺のはずだが……」


 地下には無数の扉が並んでいて、見た目はどれが正解かわからないが、リリーとユウの魔力感知で何とか目星は付いた。


「きっと、この部屋だわ」


 扉を開けて、リリーはユウと一緒に入った。何だか不思議な雰囲気のする部屋だ。


「この部屋、防魔が施してあるか? 魔法が使えない」


「いいえ……私は使えそうよ」


 リリーは試しに魔法でうさぎを出してみた。


「おかしいわ。いつもより消費する魔力が多過ぎるの」


 ユウはいつもよりかなり多めに魔力を使って光を出してみた。確かに、それでもかなり弱い光になっている。

 ユウの魔法を使っている様を観察して、リリーは考え込んでいる。


「そうよ……きっとそうだわ!! この部屋は防魔が施してあるわけではないのよ。魔力が何処かに吸取られているの」


 リリーは魔力を出しながら部屋を見回して、魔力が何処へ流れているか探している。


「ここだわ」


 部屋の真ん中の円柱の祭壇のような、しかし祭壇にするには小さいそれに、リリーは触れた。

 出した魔力がすぐ吸込まれる。


 だから、魔力が多い人間が必要なんだわ。


 納得したリリーは少しずつ魔力を流してみた。

 このやり方で良さそうだと確信を持ってからは、リリーは遠慮なくギアを上げ始めた。


「ユウ、私、初めて魔力を出し切るかもしれない」


 魔力切れは死活問題になることもある。そうなる前に魔力を入れてもらう必要がある。


「大丈夫だ。俺が居る」


 ユウの言葉を聞いて、リリーは全力で魔力を放出し始めた。



「!!!!」



 リリーの魔力が桁違いなのは話には聞いていたが、ユウが実際に目にするのは初めてだった。

 瞬きも呼吸も忘れるくらいの驚きを、ユウは未だかつてしたことがあっただろうかと考えた。

 しかし、直ぐに目も開けていられない様な、とにかく踏ん張っていても後退してしまうほどの圧がユウにくる。


 リリー自身、髪も服もなびかせながら、足を魔力で強化して立っている。

 部屋がリリーの魔力に耐えられるか心配になるくらい、あちこちの壁や天井がパラパラ落ちてきて、地響きのようなものも始まった。

 魔力を最後の最後に一気に放出しながら、リリーはこれでもかというくらいの声を出した。


「聖剣っ!!!! そろそろ、出てきなさいっ!!!!」


 眩い光と爆風でリリーが吹っ飛びそうになったのを、ユウが辛うじて抱え込んだ。

 耐えられず2人で後方へ倒れたが、どうにか尻餅をつく程度で済んだ。



 ユウの視界が漸く戻ってきて目にしたのは、崩れた円柱の祭壇のような物があった上に、宙に浮いて綺羅びやかに輝いている細くて美しい剣だった。


「これが、聖剣か……?」


 カラン、と音を立てて、それは地面に倒れた。


 その音でユウは我に返り、ぐったりとしているリリーを自分の腕の中に確認してゾッとした。

 こんなに顔色が悪いリリーを、ユウは初めて見る。


「リリ!!」


 直ぐ様ユウはリリーに魔力を流し始めた。

 リリーは魔力が枯渇しているわけではなさそうだ。

 残り僅かなところまで出すことが未経験で、初めてのそれにリリーと身体が驚いてしまっている状態だ。

 顔色が良くなったところで、リリーは直ぐ目を覚ました。


『あら、回復が早いわねぇ、魔力がまだ残ってたのかしら? 魔力オバケな子が生まれたのねぇ』


「?! 誰??」


 リリーは聞いたことのない声に驚いて、辺りを見回した。


「リリ? どうした??」


「ユウ!! 声が聞こえない??」


『聞こえないわよぉ。私の声が聞こえるのは、私を起こしたあなたか、真の所有者の契約をした奴だけなのよねぇ』


「え……」


 リリーは勢い良く聖剣の方へ振り向いた。


「聖剣?! こんな、おじっ……紳士の声でこんな口調なの?!」


 リリーは驚いた直後なので、素直に言葉が出そうになってしまった。


『お前……今おじさんって言おうとしたわね?』


「い、いいい言ってないわ!!」


 頭を横に振りながら、リリーは全力で否定した。


『ふんっ、私は乱暴な口調は好きじゃないの、ところで、お前の名前はなぁに?』


 リリーは立ち上がって、カーテシーをした。


「申し遅れました。リリー・カノ・オウカと申します」


「ユウ・ウス・フィズガと申します」


 ユウもリリーに続いて聖剣に礼をした。

 皇族が礼をするのはなかなか見られない上、ユウのそれは特別綺麗なので、リリーも見入ってしまう。


『オウカ……そう、オウカの娘なのね……核が似ているわ。フィズガを連れてきたなんて、何の縁かしら。ねぇリリー、私を起こしたってことは、魔剣も?』


 聖剣は魔剣のことを知っているらしく、リリーは少し驚きながら答えた。


「ええ、恐らくは、いつかきっと」


『そう……リリー、私に触れるのを許すわ』


 リリーが細くて鋭い聖剣に触れると、小さな髪留めになった。

 それを付けたリリーをユウが抱きかかえて、共に皇城の地下を後にした。

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