第37話…リリーは真面目さで守られている
「ということで、聖剣はどうやら皇城の地下の知られていない部屋の何処かにあり、探し当てるには魔力が非常に多い人間が必要だそうです」
タイムは申し訳なさそうに続けた。
「どんな風に必要なのかは特に載ってませんでした……すみません、すこし解読に時間がかかってしまって」
「いや、期待以上だよ」
オウカ公爵は、タイムが賢いとはパクツから聞いていたので知ってはいたが、ここまで出来るとは良い意味で想定外だった。
タイムがウィステリア候爵邸に到着して丸一日で、この成果だ。
タイムにお礼を言って電波魔法を切り、オウカ公爵は長い溜息をついた。
皇城といえば、皇帝だけど、今回は頼るところはそこじゃない……
「頼りたくないんだけど、絶好に使えて、たぶん喜んで来る人物はいるんだよね……ああ、でも、借りを作りたくないなぁぁ」
「まぁ、あれだ、しょうがねぇよな」
パクツは何か察したようで、諦めろといった感じでオウカ公爵を見ている。
あっちより、そっちの方が権限があるから、そっちだよなぁぁ。呼びたくないなぁ。
◇
コンコン
カチャ
「お父様、ユウが来ました」
オウカ公爵は重たい腰を上げ、扉まで進んだ。
「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
オウカ公爵と一緒に、側に並んだパクツもお辞儀をする。
「ああ、今日は何か用があると聞いたんだが」
「はい、ご足労を感謝致します」
オウカ公爵はリリーに防音魔法を指示して、皆に着席を促し、ことの経緯を説明し始めた。
しかし、誓約のためオウカ公爵は聖剣や魔剣について話することが出来ない。
パクツが紙にまとめてユウに渡すことにした。勿論、読み終わった際には消えてしまう魔法もかけて。
「リリの防音魔法は質が良いんだよね。これは何日くらい持つんだろうね?」
オウカ公爵は誇らしそうに部屋を見渡した。
「さぁ……2〜3日はいけるかしら」
「普通は1日持てば良い方なんだよ」
自慢気にオウカ公爵はリリーを褒めた。
もっと褒めたかったが、以前「それ以上言ったら嫌いになります」と冷たい目をして言われたので、我慢することにしている。
ユウは読み終わったらしく、紙は消滅しようとしているところだ。
「よくわかった。つまり俺は、秘密裏にリリと一緒に皇城の地下で聖剣を探せば良いんだな」
オウカ公爵の方を向いたユウは、真剣に話をし始めた。
「はい、ご足労をおかけしますが……ご協力いただけますでしょうか」
「勿論。秘密裏は得意だ。特に皇城内は兄上とよく従者を撒いて探検したからな」
ユウは楽しそうに話をしているが、オウカ公爵は、大勢で2人の皇子をそれはそれは探したという昔の記憶が出てきて、ゲンナリしながら聞いている。
「早い方が良いだろ? 今日は何も用が無いんだ。リリーが何も無ければ、今すぐにでも行こう」
「私も何もないわ」
ユウはフットワークが軽いと聞いていたが、ここまでとは知らず、オウカ公爵は悔しいが感心してお願いしてしまった。
「我々も後から皇城へ向かいます。桜花宮に居るようにしますので」
ユウがリリーの手を繋いで出て行こうとしたので、オウカ公爵は公爵家の中では引き剥がして歩かせた。
「エスコートだ!」
「リリは1人で歩けます!!」
この2人のやり取りを横目に、リリーはパクツに挨拶して、動きやすい外出用の服に着替えるために自室に戻り、着替えてからユウと皇城へ向かった。
◇
馬車からオウカ公爵邸が見えなくなってから、ユウはリリーの手を取って、手にキスをした。
「さっき出来なかったから」
リリーはクスクス笑っている。
「いつも、ごめんなさい。お父様は心配症よね」
無防備に笑っているリリーが可愛くて美しくて、ユウは抱きしめて滅茶苦茶にしたい衝動を抑えるのが毎度毎度大変だ。
「あぁキツイな……」
「お父様に言っておいた方が良い?」
「あああ、いや、そうでなくて。大丈夫だ」
離しきれない手を、ユウはどうしようかと思っていたが、リリーは普通にしている。
それも、いつも悔しい。
リリーが平気そうなのが悔しくて、意識してほしくて思い知らせたいと思うこともあるけれど、真面目なユウは思いとどまってしまう。
俺は何故こんなにクソ真面目なんだ。
ユウとリリーの手は繋がれたまま、馬車は進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます