第18話…15年前のお話③無言のパクツ騎士
怪しい男を注視していたため、ココアナ王女は驚いて声が出ない。
「……っっ!!」
次の瞬間、一人の男がココアナ王女の口を塞ぎ、布で声を出ないようにした。もう一人が抱きかかえた時だった。
ガッ
オウカ公爵の護衛のパクツ騎士が、鮮やかな身のこなしで手が空いている男の前に現れ、剣を鞘から抜かず柄で鳩尾に一発入れて倒した。
そして即、手を足で踏み潰し使い物にならなくした。
ギャッと叫び声を上げ、のたうち回っている。
間髪入れず、ココアナ王女を抱えている者には鞘ごと剣をぶち込み、よろめいた隙にココアナ王女を奪い返し抱きかかえ、一蹴り入れて倒した。
その後、最初の一人と同様手を踏み付け、後は王城の衛兵に任せた。
何とも華麗で流れるような見事な救出劇に、周りの貴族や要人たちは釘付けになった。
拍手喝采で、パクツ騎士はそっとココアナ王女を下ろして衛兵に任せ、一礼してオウカ公爵の元へ戻った。
「良くやったね、大事にならず助かったよ」
オウカ公爵の言葉にお辞儀で返し、静かに側に付いた。
ココアナ王女は暫く震えて声が出なかったので、自室へ移動することになった。
自分を守ってくれたパクツ騎士にお礼を言い忘れてしまい、会場を出るまで目で追いながら。
王族が狙われたため、拘束した三人を早急に取調べしなければならず、晩餐もそこでお開きとなった。各々滞在先へと戻って行った。
◇
「いやー、なかなかの王子様役だったね」
滞在の部屋で湯浴み後タオルで髪を拭きながら、オウカ公爵がからかい気味にパクツ騎士に話しかけると、ウエッとした顔をした。
「何言ってんだよ! 大事にならねぇように絶妙なタイミングでいっただけだろ。……ま、我ながら上手くいったよな」
「じゃあ、そのまんま騎士様だね、他国からも縁談がくるかもしれないね! ははっ」
溜息をつきながらパクツ騎士はオウカ公爵をじろっと見返した。
「若くて格好良くて、酒も色恋沙汰も特に興味なし、真面目でしっかり者…………引く手数多なんだよ。縁談を断るの多くて大変なんだから」
パクツ騎士はさっきより激しくウエッとした顔をして、オウカ公爵を睨んだ。
「だーかーら、そういうのは良いって言ってんだろ。敬語覚えんのも、貴族と生活とかも、窒息死する自信しかねえ! 断固拒否!」
そんなパクツの反応を、半ば楽しんでいそうなオウカ公爵だ。
「まぁね、言葉遣い悪いから婿に出せないんだよね、はははっ。護衛だと喋んなくて良いし、最悪ずっとうちに居れば良いか」
無口で有名なパクツ騎士は、実は言葉遣いが悪いから外で話さないようにしているだけなのは、オウカ公爵夫妻しか知らない事だ。
まだ路上で生活していたパクツ騎士が幼い頃に、お忍びでよく街を彷徨いていた少年のオウカ公爵と知り合った。
パクツ騎士の身体能力と情報処理能力をオウカ公爵が見抜き、少しずつ懐に誘い込んで今がある。
幼い頃から目をかけてくれていて、こんな態度でも怒らず寧ろ大切にしてくれる公爵夫妻に、パクツ騎士は大きな恩を感じている。
パクツに幼い頃から剣術や戦術の教師をつけてくれて、給金も他の貴族の護衛よりも口が裂けても言えないくらいかなり多めにもらっていて、運が良いにも程がある。
公爵は「能力の対価を払っているだけだよ」とあっけらかんと言うけれど。
この恩を返すべく、自分の生涯を命をかけて、公爵家を守ろうと心に決めている。
決して口には出さないけれど。
湯浴みも済ませ、オウカ公爵とパクツ騎士はお茶を飲みながら、こんな風に談笑するのが長旅の滞在先での恒例だ。
この時間が二人とも楽しいから、長い馬車移動で気が狂いそうになるのも、公爵家の温かい雰囲気に戻れないのも、なんとか耐えられる。
オウカ公爵は思う。
今日も僕の優秀な弟のお陰で無事に終わることが出来た。
本当に良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます