第14話…アキラはリリーが特別です
「リリ、上手くなったな!!」
「本当?アキラがそう言ってくれるなんて、嬉しい!いつも手厳しいもの」
「いつも優しいだろー」
「え、ダンスに関してはスパルタよ?!それ以外はとっても優しいわ」
ははっ! とアキラは笑って、リリーをターンさせた。
会話をしながら優雅にダンスをする、それが理想で最上だ。そんな様を見せて欲しいとマリルの先生にお願いされたので、今実演中だ。
「ありがとうございます! お二人とも流石ですわ。とても素敵なダンスでした。皇子殿下にまで時間を割いて来ていただけるなんて、私も幸運でしたわ」
マリルの先生が拍手をしながら大興奮で賛辞を送っている。
「お姉様は、そんなに私より上であることを見せつけたいのね」
マリルは涙目になってリリーを睨んでいる。
リリーは、またいつものが始まる前に先手を取らねばと笑顔を作った。
「上手になったら社交界デビューして、ダンスを踊れるわ。とっても楽しいから、練習頑張ってね」
社交界という言葉に反応して、マリルはキラキラした目でアキラの方を向いた。
「いつか私もアキラ様と踊れますか?」
一同ギョッとした。
アキラという呼び名は、幼い頃にリリーがアキ・イラを上手く言えずに呼び始めたもので、それを気に入ったアキラは他人が使うことを嫌がった。
アキラ呼びを許されている人間は限られていて、本人にとって本当に特別な人達だ。
両親である皇帝と側妃、兄弟のユウとリョウ、そしてリリーのたった5人だけ。
初対面ならば尚更、第一皇子殿下と呼ぶべきところで、しかも自ら話しかけるのもアウト、マナー教育で何度も念を押されるところだ。
教師は一変して青ざめて震えているので、見るに見かねたリリーが溜息を我慢してマリルに優しく諭してみた。
「マリル、マナーで習ったでしょう? 第一皇子殿下と呼ばなければならないのよ」
マリルは見るからに不機嫌な顔をして、リリーを横目で見た。
「だってリリーお姉様が呼んでいるんだから、やっぱり私も良いかなって。同じ公爵令嬢だもの」
この状況で言い返せるなんて、マリルははなかなかの度胸の持ち主だ。
「私はお許しをもらっているから呼ばせていただいているの。だから、他の人たちは第一皇子殿下と呼んでいるのよ」
リリーは優しく説明をしてみた。
「お姉様が呼んでいたら、私だって呼びたいわ!」
ああ、ダメだわ。何故だか伝わらない。
もうこれは平民だからとかそういう問題ではないと、リリーは悟った。
人となりだ。
生まれ持ってきた何かが、かなり違う? 失礼の概念が無い? 違う世界から来たのかしら?
マナーって何?
リリーがマリルの分析で迷宮に迷い込んでしまっている間に、どんどんアキラの機嫌がよろしくなくなっていた。
「ははっ! 噂以上に我が婚約者殿は愉快なご令嬢だね。これはこれは、先生もご苦労だなぁ。しかし……しっかりと教え込んでもらわないと"お前たちのせいで"オウカ公爵家の名が廃ることになるな」
鼻で笑って、冷淡な眼差しで話をするアキラに、リリー以外誰も目が合わせられず下を向いている。
しかし、当の本人のマリルには全く響かず、寧ろ、噂になって第一皇子のアキラに自分が知られていたという部分に喜んでいるようだった。
なんて強メンタルなの……と逆に感心して、リリーは更にマリルから目が離せない。
「ほら、行こう、リリ」
リリーに優しくふわりと頬にキスをした。まるでリリーとマリルとの扱いの差を見せつけるように。
いつもより寄添えるようにリリーの腰に手を回して、アキラは珍しく苛ついた足音を残しながらその場を後にした。
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