俺は笑い続けるよ

花園眠莉

俺は笑い続けるよ

 「私が死んでも、笑っていてね。」これは結愛の口癖だ。俺と結愛は幼稚園からの幼馴染。

「なんで?俺、結愛が死んだら泣くよ。…多分。」結愛が死ぬなんて考えられないし、考えたくない。

「多分って、りーちゃんは面白いね。死んだって悲しむ必要ないと思うんだよね。死ぬ運命だっただけでしょ?なら皆には笑ってて欲しい。」結愛のその考えを聞いて共感と怒りが湧いてきた。矛盾したことを言っているのは分かっている。

「じゃあ結愛が死んだ時、俺が笑えるような納得した死に方か理由にしてよ。そうじゃないと泣くから。」結愛の幸せを一番に願っているから自分の選択で決めたのなら納得するしかないと思う。


 結愛は困ったような顔をして笑った。

「りーちゃんが納得するって難しいなぁ。」そう言い残した後、飲み物を口に含んで何か考え始めた。


 「お待たせしましたマルゲリータとカルボナーラとティラミスとカタラーナとプリンになります。」丁度会話が途切れたタイミングで注文していたものが運ばれた。俺達は軽く礼をした。

「結愛は本当によく食べるよね。デザートは食後にしてもらった方が良かったんじゃない?」テーブルが埋まったこの状況を見てつぶやくように聞いた。

「だって面倒じゃない?何度も行くとか。」そう言ってカタラーナから食べ始めた。

「まあ、そうだね。」俺は注文したプリンを一口掬って食べる。

「陸翔、この世界でやりたいことが無くなったら死ぬ。これは納得する?」さっきの話に急に戻った。しかも珍しく名前呼びだった。

「どうだろう。でも結愛には死んでほしくない。」

「あはは…プレッシャーじゃん。」それから適当に話をしてから帰った。


 次の日、結愛は死んだ。包丁で刺して自殺した。結愛のお母さんから俺宛の手紙を貰った。結愛の好きそうな可愛い封筒だった。


 開くと綺麗すぎないけれど読みやすい字が並んでいた。


相川陸翔様へ

いざりーちゃんに遺書を書こうとしても何から書いていいか分かんなくなっちゃった。昨日話していた納得しそうな理由じゃないのに死んでごめん。でも、やり残したことは一つだけだから許してね。私ね、教師になりたかった。高校の倫理か数学のどっちか。だってなんか格好良いでしょ?こんな冗談は置いておいて、これは私の選んだ死に方だから笑ってね。大好きだよりーちゃん。

新田結愛


所々涙の乾いたような跡がある。泣きながら書いたのだろうか。そんな結愛とは反対に涙は出てこなかった。結愛の死を受け入れられてないのか、はたまた情がないのか。長い夢でも見ている気分だ。


 それから二年後の春。俺は今、浅橋教育大学の門の前にいる。結愛、俺は結愛の代わりに数学教師を目指しているよ。

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俺は笑い続けるよ 花園眠莉 @0726

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