第9話 社畜の鏡こそが年末も世間を動かす(いわゆる社会の歯車ってやつです)

えぇっと、唐突なんだけど

今、めちゃくちゃ体調悪いんだよね。


心当たりならある。


つい先日の1人だけのデス・マーチ(パワーワード)のせいなんだと思う。


それを言ったらシルラはどっかへ行ってしまった。

…薬なら家にあるよ。


電話が鳴り響く。

会社には休みって伝えたはずなんだけど…


いや、こんな時期にホントに悪いんだけどね。


最後の気力を振り絞って受話器を取る。


「花森さん大変なんです。

仕事が終わんないんです―!?」


「ごめん、マジで今は無理なの。

昨日のアレがたたってさぁ、めっちゃ体調悪いんだよ。」


電話までして泣きついてきた山下さんには申し訳ないけど

1日で直して、明日の仕事納めで一気に挽回するつもりだ。


その旨を伝えたら分かってくれた。


寝室に戻って気付いた。


たしか私のPCに仕事入ってたはず…


開けてみたら、やっぱりあった。


早速初めて見たら

あら不思議、なんか体調良くなってきた?


このまま一気に片づけられるかも?


◇◇◇


気付いたら会社のデスクに座ってた。

さっきまで家にいたはずなのに…なんで?


みんな周りで必死に仕事してる。


ってことはコレって現実?


ま、いっか。

年末のデス・マーチに現実も夢も関係ない。


早速、デスクに向き直って仕事のお片付けを始める。


午後6時。

なんとか目途がついた。


「この仕事やったの誰?」


あ、それ、私のやったやつだ。


「あ、私がやりました。」


結構、大きい声で言ったはずなんだけど

誰も気づかない。


…なんで?


そう言えばさっきから若干体が透けてるような…


「…か、…よか、清華、起きなさいっ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


目が覚めた、ベッドの上だ。

横にいるのはシルラと…誰?


「清華、あなた仕事に執着しすぎよ。

完全に離れる前に戻せてよかった。」


執着?完全に離れる?戻せてよかった?


…どゆこと?


シルラは順を追って説明してくれた。


無意識化で私の魔法が発動して

私の意識だけが抜けだしたこと。


意識が会社まで飛んで仕事をしてたこと。


それを感知したシルラが

なんとか戻してくれたこと。


ついでにちょっと早い年末休みを勝ち取ってきたことも。


「それで、横にいるのは?」


「あぁ、これは私の友人よ。

清華を治してもらうの。」


シルラの横に佇む人間(?)は

艶めいた褐色の肌、美しい黒髪、それにとがった耳…


…とがった耳?


「この子は、ダークエルフのリルラ。

この子なら清華の病気も治せるはずよ。」


ごめんシルラ、私ただの風邪だと思うから寝てればいいと思うんだけど…


「それでは失礼いたします。」


リルラと言った少女が私の胸に手を当てる。

その手から暖かな光がもれだし始めた。


数分後、リルラの放った一言は…


「ただの風邪ですね、無理が祟ったんでしょう。」


それのみだった。


そこに食って掛かったのがシルラ。


「あんたねぇ、いい加減なことしてるんじゃないわよ。

清華がただの風邪なんてありえないわ!!

これはきっと死の病に違いないもの。」


誰がそんな物騒な名前の病名、出せと言った?

そんなのになってたら

とっくの昔に死んでるよ。


シルラをいさめようとした時だった。


「ではお聞きしますが…

シルラ、あなたには病気の知識はあるんですか?」

死の病だと思った理由は?

あなた、鑑定魔法は使えませんよね?」


リルラが恐らくキレた。


恐っろしいほどの理詰め。


「アンタだって鑑定魔法使えるだけで威張ってるんじゃないわよ。

鑑定魔法に頼りっきりの腕に自信のない医者がさ。」


シルラがキレ返す。


「私は患者のあらゆる情報を観察したうえで

鑑定魔法を使っていますので、腕には自信がありますが…

それとも何ですか、今すぐどっちが上か決めますか?」


「えぇ、やってやるわよ。

表出なさい、アンタなんてワンパンよワンパン。」


あぁ、めんどくさいことになってきた。

こうなったらシルラ、止まんないんだよなぁ。


最後の砦、真面目枠のリルラも

頭に血が上っちゃってるからなぁ。


さて、この騒動を止めるにはどうすればいいか。

多分止めなかったらここら一帯、壊滅する。


年末に壊滅とかラップでもないし、シャレにもなんない。


「アンタなんてデコピン1発で十分よ。」」

「あなたには少し分からせなければいけませんね。」


さて、そろそろ止めるか…


「…うるっさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


今年最後かな?

叫んだ途端、魔法陣が浮かび上がって部屋が揺れた。


シルラとリルラが一瞬で静かになった。

2人で抱き合ってる。

なぁんだ、仲いいじゃん。


「やっぱり清華が1番だわ…」

「えぇ、そうですね。」


◇◇◇


「先ほどはお見苦しいところを見せてしまい

本当に申し訳ありませんでした。」


リルラが玄関で頭を下げている。


「いいんだって、薬もよく効いたしね。」


実際、リルラの薬の効果はすさまじかった。

飲んで数時間ですっかり回復した。


「それに…シルラもなんだか楽しそうだったからさ。

またヒマだったら、うち来ていいよ。」


リルラは何度も頭を下げて

帰っていった。


そう言えばシルラは戻れないって言ってたけど

リルラはどうなんだろ?


「シルラも楽しかったんでしょ?」


「まぁ、それはそうね。」


おっ、ついにツンデレ属性も獲得したか?


「今何かとっても失礼なこと考えなかった?」


あはは、いったい何のことやら。


◇◇◇


後日、病院に薬をもらいに行った。


年末でも空いてるとこ探すの、大変なんだよ。

そんな中で見つけた病院に行ったんだけどさ…


「アンタ、なんでここにいるのよ?」


「私はここの医師ですから。」


リルラが居たって話。


この話はもう少し続きがあるんだけど

年末に語るには重すぎるから、またいつかね。


なんだかんだバタバタした年末だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「面白かった」、「続きが気になる」など感じていただければ

評価、感想、レビューもよろしくお願いします。

次回の更新は12月31日(日)です。



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