エルフへの 先祖返りも ほどほどに

かつをぶし

第1話 先祖返りもほどほどに(何事にも限度というものがあります)

「あー、もう最ッ悪。」

そんなことは吐くのは、皆様お疲れの金曜日。

25歳、OLの私にとっては唯一の救いの日。


明日から休みだ、今日はしこたま飲むぞと飲み始めて

早、数十分。


会社からメールが届く。


「休日出勤」


その文面が私を奈落の底まで突き落とした。

最高の気分が最低の気分に早変わり。


明日も出勤なのに、たまった鬱憤はこうしないと晴れない。


「おっちゃん、ビールお代わりっ!!」


************************


あれからどうやって帰ったのかは全く覚えていない。


見事なまでに酒に飲まれ、

布団にくるまった私に非情な目覚ましがその時を告げる。


―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリー


頭にガンガン響く音は私に

「さぁ、さぁ、さぁ」と急かすように鳴っている。


鳴り続くうるさい目覚ましを止めようと

手を伸ばすも届かない


布団から出ればいいのだが

明るい光が目に差し込むと頭がガンガン痛む。


そんな状態が数分続くもまだ止まらない目覚ましに

いい加減、腹が立ってきた。


―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリー

「…………………」


―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリー

「…………………」


―ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリー

「うるっさぁーーーーーい」


逆ギレだ、分かってる。

今日、出勤なのに昨日死ぬほど飲んだ私が悪い。


でもイラつくものはイラつく。

止まらないしつこい目覚ましにムカッ腹が立って叫んでしまった。


その時、

壁に何かが叩きつけられたかのような派手な音が鳴る。


「うわぁぁっ」

何だ何だと辺りを見渡せば、

大破した目覚ましが床に転がっている。


頭痛が吹き飛び、若干残っていた酔いも醒めてしまった。

―なにこれ?-


何が起きたかさっぱり分からない、

強いて言えば、さっきの「うるさい」だろうか?


ふと壁の時計を見ると、始業まで残り1時間。


「しくったぁぁぁぁぁぁぁぁー」


最低限の用意をして、家を飛び出した。


今思えばこの時、ちゃんと鏡とか確認しとけばよかった。


職場に着いた。

なんとか間に合った。


何年振りかの全力ダッシュ、

階段飛ばしで転びそうになったことに時の流れを感じます。


昔はこんなに息切れもしなかったのに、なんて思いつつ

デスクに伸びていた。


「おはようございます、花森さん。」

そう声をかけてきたのは同僚の山下さん、

朝からお元気なことで。


彼女が心配そうに私の顔を覗き込む。

「どうしたんですか?顔色悪いですよ。」


「いやぁ、2日酔いで。」

情けない、今日が出勤ってのは分かってたのに…


「じゃあこれあげますね。」

そう言って彼女がデスクにおいてくれたのは

某エナジードリンクだった。


まさかこんなものでこの頭痛が治るとも思えない。


自慢じゃないが私はこういう系のドリンク苦手なんだ。

だが彼女の善意をむげにするわけにもいかない。


逡巡する私を横から期待のまなざしで見つめる彼女、

(えぇぃ、ままよ。)

どうにでもなれと一気に飲み干す。


例の独特の風味が口いっぱいに広がって、

広がって、広がって…


数分前の自分に土下座をさせたい、

こんなので治るなんて思えないなんて言ってごめんなさい。


すっかり頭痛は治ってしまっていた。

いつもより効き目がいいような...


山下さんはルンルンと自分のデスクに帰っていった。


◇◇◇


色んな所から視線を感じる。

そしてひそひそ話も聞こえてくる。


耳をすませば、

「花森さん、…が…」

「コスプレなのかな?」

なんて声が聞こえる。


そういやなんだかいつにも増して

耳が聞こえやすいような…


それでも特に問題なく午前分の業務が終わった。

昼食をとる前に少し手を洗っておきたい。


お手洗いに入る。

手を洗う、鏡を見る。


「?」


耳が、耳が、耳がとんがっていた。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


◇◇◇


状況を整理しよう。


仕事をする→手を洗う→鏡を見る→耳がとんがってる!?


待て待て、最後だけ違和感がありすぎる。

これまでの行動に耳がとんがる要素が1つでもあっただろうか?


結論、ない。1つもない。


あったとするのなら全人類の耳がこうなるはずだ。


デスクに戻ってじっくり考えてみる。

どれだけ考えても心当たりがない。


その時だった。

「花森さぁーん、お昼一緒に…ってえぇー!!」

山下さんが襲来。


1人で考えても無理なようなので

彼女にも助けを求める。


お昼を食べながら、かくかくしかじか話すと彼女は

「エルフみたいですね!!」

とだけ言ってきた。


「エルフってあれだよね、あの漫画に出てくる。」

私の中のイメージは魔法を使ったり、歌を歌ったり、弓を引いていたり。


私は歌は苦手だし、弓なんてひけないし、ましてや魔法なんて言わずもがな。


エルフと共通することなんてあるはずが…


ん?魔法?


朝の出来事を思い出す。


鳴る目覚まし、叫ぶ私、砕ける目覚まし…


まさかね、そんなことあるはずがない。

そう思いながらも顔に出ていたのか


「大丈夫ですかぁ花森さん?なんか顔引きつってますよ。」

山下さんにそう言われた。


そりゃ顔も引きつるっての、

今だって意識してもないのに顔ぴくぴくしてるの分かるんだもん。


朝は大声出して、それっぽいものが出ちゃったけど

ここは職場だからなぁ。


気をつけないと弁償どころの騒ぎじゃなくなってしまう。

目の前のPCだって会社のものだし


私の給料、飛んでくかもしれない。


「このまま気にしすぎても仕方ないじゃないですか。

まぁ気楽に行きましょう、気楽に。」


イラっとした、

さてはこの人、事の重大さを把握していないんじゃないか?


それはさておき

さっきイラっとしたその瞬間、自分の視界に何かが映ったような


見間違いじゃなかったら

それこそ魔法陣みたいな何かがわずかに浮かんでいた。


これじゃホントに私がエルフみたいじゃんか。

これから何かと苦労しそうだ。


とりあえず今日は

残りの仕事でストレスためないようにしよう。


朝みたいに被害が出たら

それこそ目覚まし1つじゃすまない。


全ては安定した生活のため、

給料から差し引かれるなんて、まっぴらごめんだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「面白かった」、「続きが気になる」など感じていただければ

評価、感想、レビューもよろしくお願いします。

週1くらいで更新します。

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