第13話
《転生前》
純和風の大きな屋敷の一室、外から聞こえてきた鳥の鳴き声でいつも通り目を覚ました。布団から起き上がり、小さく欠伸を溢してから着替え始める。
高校の制服に着替えて、顔を洗い軽く朝食をとってから家を出る。
「………氷!……麗氷!!」
「…………………」
通っている高校へ向かって2分ほど歩いたところで、後ろから私を呼ぶ男の声がするが、無視して歩き続ける。
「麗氷ってば!一緒にいこうよ!!」
そう言って私に追い付いて隣を歩いている、私の名前を呼んでいた声の主に私は、一瞬睨み付けるような視線を送って、すぐに視線をそらし無言で歩き続ける。
先程から私の名前を連呼し続けている男は、光元勇輝(こうもと ゆうき)。一応私の幼馴染なのだが、仲が良いとは言えない。
騒がしい幼馴染を無視して歩き続けて、漸く校門が見えてきた辺りで、猫撫で声で勇輝に呼び掛ける複数の声がして、私は思わず顔をしかめた。
『勇輝(君)(さん)』
聞こえてきた声の持ち主達に関わりたくないからと歩く速度を早めたが、勇輝が私に合わせているせいで声はどんどん近付いてくる。走って振り切ろうかと思い始めた頃にはもう遅かった。
「勇輝さん。一緒にいきましょう?」
「勇輝くん。一緒に学校行こうよ~」
「勇輝!一緒にいこう!」
すぐ側で聞こえた女子の猫撫で声に思わず頭を抱えたくなった。
勇輝が私の手をつかんで立ち止まったため仕方なく足を止めて、肩越しに振り向いて視界の端にその姿を納めると、三人の女子が私を睨んでいた。
(大方、私が勇輝に付きまとっていると思っているのだろうな。先日も勇輝と一緒に居ることに難癖つけてきたし。恋は盲目とはよく言ったものだ。実際は、私が勇輝に付きまとわれているのに。そんな事梅雨ほども考えたことがないのだろう。…………っていうか、なぜ勇輝はあれに気付かないんだ?)
いまだに私を睨み付けている三人に笑顔で語りかける幼馴染に心底不思議に思う。
「おはよう皆!もちろん一緒にいこう!」
もう毎朝繰り返されている光景だが、この三人のうち二人は学校から出て私達の家がある方向とは真逆にある大きな屋敷だったはず。勇輝もそれを知っているはずだが、何故此処に居ることに疑問を抱かないのだろうか?
睨み付けてくる視線が鬱陶しい。あの三人が難癖つけてくる前に離れよう。そう思い勇輝の手を軽く振り払い前を向くと、後ろから肩を叩かれて話しかけられた。聞きなれた声に振り向くと、私のもう一人の幼馴染が立っていた。
「麗氷。おはよう」
「おはよう。蒼夜」
橘 蒼夜(たちばな そうや)。それなりに整った顔立ちをしているものの、勇輝が一緒に居るせいでモテない。そのうえ勇輝の取り巻き達に、敵意むき出しに「勇輝に付きまとうな」と毎日のように言われているせいで、険しい顔をしていることが多くなってしまっていた。実際は勇輝が蒼夜に付きまとっているのだが……。
彼が、勇輝やその取り巻きをスルーして私に話しかけるのは何時ものこと。蒼夜と合流して、二人で話ながら学校へ向かう。そんな私たちに、話し掛けてきて一緒に行こうとする勇輝と、その勇輝を追いかけながら私達に文句を言う勇輝の取り巻き達。
これが私の日常だった。
………今日までは
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