第20話 プールで遊ぼう!



 プールに行くための、水着選び。渚のおかげで、いいものを買うことができたと思う。

 ちなみに、水着を買いに行くことは尊にも話しているが(というか渚が話した)、どんな水着を選んだかは、当日までの内緒だ。


 その後、学校では夏休み前にテストがあった。

 赤点を取れば補習という形だが、事前の勉強会のおかげで、四人とも事なきを得た。


 その際、山口が一番勉強ができ、かつ教えるのもうまいということがわかった。さすがメガネキャラだ……と愛が思ったのは、内緒だ。

 さらにその勉強会で、恵は山口によく教えてもらい、二人の距離も縮まったように思う。


 そして、今日。


「プールだぁ!」


「晴れて良かったねぇ」


 四人の予定を合わせ、天気予報も確認したこの日……

 ついに、プール日がやって来た。


 愛、恵、尊、山口はそれぞれ、駅前に待ち合わせ、電車に乗ってここまで来た。

 会場を前に、恵のテンションは爆上がりだ。


「もう恵ったら。はしゃぎすぎだよ」


「そんなこと言ったってー。ちょっと前まで勉強勉強だったんだよ。

 今日こそは、羽を伸ばすぞー!」


 恵は、感情を体全体で表している。

 愛も、実際のところは恵と同じ気持ちだ。


 これから、尊に水着を披露して……ちょっとでも意識してもらえるように、頑張るのだ!


「男子と女子はここで一旦分かれるみたいだね」


 割引チケットを見せ、場内に入る。まずは、更衣室だ。

 男子と女子に分かれた更衣室への分かれ道。それを前に、四人は一旦足を止める。


「じゃ、行くとすっか。お前ら、遅くなるんじゃねえぞ」


「神成くん、女の子の着替えは時間がかかるんだから」


 さっさと行ってしまった男子二人。その背中を見送り、愛と恵は視線をあわせた。

 今日勝負を決める……とまではいかなくても。せめて、女の子として見てもらいたい。


 その気持ちを胸に、更衣室へと……足を踏み入れて。


「あいあい、アタシは着替え終わったけど……」


「んん……私はもうちょっとかかりそうかな」


 恵と愛とでは、選んだ水着の着方が違う。

 そのためか、恵が先に水着を着終わったようだ。愛は、まだまごまごしている。


「手伝おっか?」


「ううん、大丈夫一人でできる。

 それより、早く行って、山口くんに水着見せてきなよ」


「う、うん……」


 ここまで来たのだ。あとは、女は度胸だ。

 軽く頬を叩いて、恵は一足先に更衣室を出ていく。


 さてと、あとは自分も、速く着替えてしまわないと。

 ここを、こうして……よし。


「ありゃ、私一人か」


 気づけば、周囲に人の気配はなかった。

 着替えに苦労している間に、みんな行ってしまったらしい。


 更衣室にある、姿見で自分の恰好を、確認する。変では、ないだろうか。

 渚と一緒に選んだ、水着。それに、髪型も少し変えて、いつもとは違った雰囲気を出して……


「……!」


 自分の髪を、指でいじっている……そのときだ。なにやら、ざわっとした、嫌な感じがしたのは。

 その、直後。


「きゃー!」


「! 悲鳴!?」


 かすかに、聞こえた悲鳴。

 聞き違いではない。間違いなく、女の人の悲鳴。それに、この感覚。


 愛はとっさに、スマホを見る。ヒーロー用のスマホだ。 

 そこに、反応はない。しかし、それも当然だ。怪人が出現しても反応しないよう、博士が事前に切っておいたのだから。


「気のせい……って、思いたいけど……」


 そんなに楽観的には、考えられない。

 この感覚は、何度も味わった。怪人が近くにいる時の、あの感覚だ。


 今日は、ヒーロー休養日だ……だが……


「そんなこと、言ってられないでしょ!」


 どこか遠くで怪人が現れたなら、ともかく。

 手の届くこの距離で、怪人が出現した。それを前に、愛は黙ってなんていられなかった。


 だって愛は、どうしようもなくヒーローなのだから。


「ああもう! なんでこんなときに……!」


 水着のまま更衣室から飛び出し、駆け出す愛は、周囲に人の気配がないことを確認して……スマホのボタンを、押した。

 いくら博士が、スマホの機能を切っていても……緊急時には反応するよう、設定されている。

 ヒーロー変身が、その一つだ。


 ヒーローレッドのスーツに身を包み、さらに身体能力が増した愛は、悲鳴の聞こえた方へと駆けつける。

 見えたその先には……


「げっげっげ! ぴちぴち水着ギャル、見ぃっけ!

 その白い肌を水で包み込んで、あわれに溺死させてやる!」


「! 変態かと思ったら、ぞっとしないことを……!」


 聞こえるのは、ノイズの混じった怪人の声。というより、水の中で無理やり声を出した時のような、声。

 曲がり角を曲がると、そこには……尻餅をついた水着の女性。そして対面にいる、水の怪人。


 これまでの怪人とは、なにか違う。

 そこにいるのは、大きな水の球体が浮き、口のようなものがぱっくり開いている姿だった。


 球体から水の鞭……触手のようなものを伸ばしている。

 挙動は変態そのものなのに、えげつない殺し方をしようとしている。


「させるか! その女性に近づくな!」


「やめろ怪人め!」


「……え?」


 愛は助走をつけて飛び、怪人目掛けて飛び蹴りをおみまいする……その直前。

 女性のものでも、怪人のものでもない声が聞こえた。男の……聞き覚えのある、声。


 戸惑う間が、動きは止まらない。レッドのキックは、吸い込まれるように怪人へと命中。

 バシャア……と、水が飛び散る。まるで、水風船が割れたかのよう。


 これで、ちゃんと倒せたのか……


「あ……れ、レッド!?」


 そう、疑問に思う愛に、またも聞きなれた声。

 なんで、ここに彼が……その思いを抱いたまま、愛は、レッドのまま振り向く。


 そこには……怪人に襲われそうになっていた女性。そして、女性を守ろうとしていた尊の姿が、あった。

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