第6.7話 ケトルベルスイング(2)

そして、フジカルは、ケトルベルスイングの大事なポイントを説明し始めた。


「ケトルベルスイングを実際に始める前に、まずはひとつポイントを伝える。ヒップヒンジだ!」


ヒップヒンジは、スクワットやデッドリフトなどでも大事な概念だ。ヒップは腰や尻という意味も含むが、股関節という意味もある。そして、ヒップヒンジにおけるヒップという表現は、股関節の部分を示す表現だ。ヒンジというのは、ドアの蝶番(ちょうつがい)の部分のことだ。要は、ふともとと背中を両方ともそれぞれを直線のようなイメージで捉え、股関節と中心としてドアの蝶番のように動かすことがヒップヒンジと言われている。


「まず、デッドリフトのような体勢になったうえで、背中をまっすぐ、というか脊柱の自然なカーブが維持される状態にしつつ、股関節を中心にしたドアのように動こう!これがヒップヒンジだ!」


このヒップヒンジは、本当に色々なところに活きていくテクニックであり、身体を制御するうえで鍵となる身体動作だ。デッドリフトでもヒップヒンジは大事であり、ケトルベルスイングとデッドリフトを交互に行ったり来たりしながらヒップヒンジを意識するのも面白いトレーニング方法かも知れない。


「ということで、まずは、ケトルベルを地面に置いて、スイング開始の準備の体勢をやってみようか!」


そう言ってフジカルは、パタヘネの前にケトルベルを置いた。


パタヘネは、ケトルベルに手を伸ばそうとしたが、そのとき、腰椎が屈曲してしまう。


「もうちょっと、しっかり背中を維持しようか。角度を理解しやすくするために背中に棒を当ててみよう」


そう言ってフジカルはパタヘネの背中に棒をあてがう。


背中に棒が当たった状態で、腰椎が屈曲していると、ちょうど曲がっている部分だけが棒に触れる形になるので、本人も曲がっている箇所を理解しやすくなる。棒と背中が接する感触を頼りに、パタヘネが腰椎の屈曲を改善したとき、パタヘネはふとももの裏側にあるハムストリングが引っ張られるような感覚があった。


「背中をまっすぐにすると、ふとももの裏側に凄いくるんっすけど」


パタヘネは主張する。


「そう、その背中の角度を最初から最後まで維持しながらケトルベルを揺らすのが大事だぞ!」


そう言って、フジカルがケトルベルスイングを実演する。


「そして、ケトルベルスイングだが、まずは、大きく揺らさず、ヒップヒンジを行いながら、ケトルベルが重力で下に落ちていくときに、股関節で上手く受け止めつつ、地面を押す力を感じよう!」


ケトルベルスイングを初めて行うと、上に振り上げる瞬間を強く意識しがちであるが、ケトルベルが重力で落ちていくのを制御するときにどう身体を制御するのかも大事なのだ。


そして、ケトルベルが下がっていくときに腰椎が過度に屈曲してしまうエラーが発生しがちだ。パタヘネも、そのエラーが顕著だった。


「ケトルベルが落ちてくる時に、背中が崩れているから気をつけよう」とフジカルがパタヘネに声をかける。


パタヘネは、背中を少し意識するが、うまく振れたのは数回に1回ぐらいだった。それでも、まずはやってみるのが大事だ。最初から完璧は難しい。


「難しいっすねー」とパタヘネは叫ぶ。


エリカも一緒にケトルベルスイングを行っていたが、そちらも同様のエラーが観測できた。


エリカもパタヘネ同様に、「これは難しいですね」という感想だった。


何度かスイングを行った後に、今度は、少し発展したスイングにもチャレンジすることにした。


「慣れてきたら、上に振り上げるときに身体が直立するぐらいまで一気に振り上げてみよう!」

と言いながらフジカルが実演する。


ケトルベルを大きく降り始めるとエラーが顕著になることがある。パタヘネも大きくケトルベルを振ると目立つエラーが姿を表した。


パタヘネに見られたエラーは、まさにケトルベルスイングありがちなエラーだった。ケトルベルの重さを十分制御しきれず、バランスを多少崩してしまい、足の指の爪を立てるような感じで地面をつかむようにしてしまうというものだ。


フジカルがパタヘネに声をかける。


「ケトルベルを振るときに、足の指で地面をつかむように、いわゆる"かむ"動作をしないようにしよう」

「そうならないために、かかと、足の親指の付け根と小指の付け根、その3点に均等に荷重するようにしよう!その3点で作る三角形をトライポッドと表現することがあるので覚えておこう!」


足裏全体にしっかりと体重を乗せるために、足裏の3点を意識するといった手法があるが、この手法はケトルベルだけではなく、他のウェイトトレーニングでも活用可能だ。トライポッドの考え方は汎用性が高いのだ。


その後、数度、パタヘネはケトルベルスイングを行った。


ケトルベルスイングは、やってみると短時間で息があがる。そして、振っていると足裏への圧力も感じやすい。ただ、慣れるまで少し時間がかかるトレーニングかも知れない。


「最初から全部をうまくやるのは難しいかも知れない。今日は、これぐらいにするけど、今後もケトルベルスイングを続けていこう!」


フジカルは、そのようにパタヘネに声をかけると、次のトレーニングに進むことを告げた。


「よし、じゃあ、次は、がっつりとウェイトを扱うのにチャレンジしよう!」

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