第2.10話 エピローグとウンチク

トレーニングを開始してから2週間後、サリーは冒険者パーティ"ブルーサファイア"に戻って再びゴブリンメイジ討伐にチャレンジしていた。


フジカルは、何故か忍者のような格好をしながら岩陰に隠れつつ、こっそりと潜みながらサリーを見守りに来ていた。

これまで方向転換の練習を繰り返してきたが、実戦でとっさに出る動きを確認したかったり、次に改善可能な課題を発見できる手がかりになるかも知れないという考えもあった。


問題のボス戦が開始され、例のごとくゴブリンメイジが無限にシャドウウルフを召喚する。


サリーはゴブリンメイジ目掛けて走るが、途中、シャドウウルフが行く手を阻む。


そこでサリーは、身体の正面はゴブリンメイジを向いた状態のままで咄嗟に90度横方向へ方向転換を行い、その直後に、また90度の方向転換を行って、シャドウウルフをかわしつつ、本来走っていた方向へと突き進む。


カッティング成功である。


そして、そのままゴブリンメイジへと到達し、一太刀を浴びせて討伐に成功した。


ほっとしたフジカルは、バレないように静かに冒険者ギルドへとひとり帰って行った。


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ギルド受付のエリカは、笑顔でダンジョンから戻ってきたサリーたちから提出されたゴブリンメイジの討伐証明部位を受け取った。

無限召喚されるシャドウウルフを振り切り、無事、ゴブリンメイジを倒せたようだ。


「成功して良かった」と、ほっと胸を撫で下ろすエリカだった。


サリーたちがギルド受付から去って少ししてから、フジカルがふらっと受付にやってきた。

フジカルに対してエリカが、サリーたちが無事ゴブリンメイジを倒したことを伝えた。


「サリーさんたちが討伐を成功させて良かったですね!」


少し間をおいて、エリカが続けた。


「ところで、このあと、お時間ありますか?夕飯でも一緒にいかがですか?」


あざとい角度でエリカがフジカルを見上げる。


しかし、フジカルには、このあとやりたいことがあったようだ。


「昨日、ファシアに関して論じている新しい論文が出たんだよ!さっき、概要を読んだが、面白そうだったのでこれから部屋に帰って読みたいから、今日は無理かな」


エリカは少し不満そうにしながら


「そうですか。では、またの機会に。。。」


と言った。



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ウンチク

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この章では、女性冒険者がカッティングを行う際に、膝の前十字靭帯を断裂する怪我をしてしまうというテーマでした。

前十字靭帯は英語でACL(Anterior Cruciate Ligament)と表現しますが、日本国内でも「ACL損傷」と表現されることが多く、着目されることが多い怪我の一種です。


今回のストーリーを女性のACL損傷というテーマにしたのは、地球における現実世界において、女性アスリートにおけるACL損傷が、男性アスリートと比較して多いという研究が数多くあることを意識しています。


加速・減速・方向転換を繰り返す競技において、高校生および大学生では、男性よりも女性のACL損傷が著しく多いことを示した研究の例としては、たとえば、2016年に発表された以下の論文[Stanly2016]があげられます。この論文では、高校および大学の5種目のスポーツにおいて女性の方が男性よりもACL損傷が多いとしています。


[Stanly2016]

Stanley, L. E., Kerr, Z. Y., Dompier, T. P., & Padua, D. A. (2016). Sex Differences in the Incidence of Anterior Cruciate Ligament, Medial Collateral Ligament, and Meniscal Injuries in Collegiate and High School Sports. In The American Journal of Sports Medicine (Vol. 44, Issue 6, pp. 1565–1572). SAGE Publications. https://doi.org/10.1177/0363546516630927


ただし、急激な減速を伴う方向転換においてACL損傷が発生してしまうというのは、性別に限らず発生する可能性があります。


今回のストーリーでは、特定のエラーを例として、そのエラーへの対処として考えられるトレーニング等を紹介しています。しかし、今回のストーリーで紹介したエラーとは異なる場合には、このストーリーで紹介しているアプローチとは違う手法の方がマッチする場合もあると思います。

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