第6.4話 力の立ち上がり率、RFD(Rate of Force Development)

計測結果が表示されているノートパソコンを見せながらフジカルが説明を始めた。


「結果が数値とグラフで出てくるが、グラフは横軸が筋力発揮時間で、縦軸が発揮された力をニュートンという値で示したものだ」


異世界の人々にニュートンという単位を紹介しても、その語源となる偉人を知っているわけがない。しかし、そういう単位なので、気にせずそのまま説明を続けた。


「グラフを見ると、最初がゼロから始まっていて、立ち上がりは緩やかに、そして途中から急激に力が増加しているのがわかる」


「そして、少し経ってからグラフの山の頂上と言えるようなピークにくる」

「このピークの部分が発揮できたパワーのピークだ!」


「このグラフを見ると、今回の結果では、だいたい350ミリ秒ぐらいでピークになっている」

「2003年の論文[Aagaard2003]では、最大筋力に達するには300ミリ秒を要するとある。急に最大筋力を出せるわけではないんだ!」


いきなり最大筋力を出せるわけではないという事実は、さまざまな場面で大事な要素となってくる。最大筋力に到達するまでには、結構時間がかかるのだ。


「さて、今回、解決したい課題は、遠くへジャンプすることだ」

「ジャンプにとって大事な要素は、助走と踏切りだ」


「そこで、助走と踏切り、それぞれ地面に接地している時間はどれぐらいか、というのがポイントになる」

「短距離走での一歩での接地時間は約8-10ミリ秒ぐらいという書いてある本[Zatsiorsky2020]があるが、今回はそれを参考にしよう」

「同じ研究では、走り幅跳びでの踏切時間は110-120ミリ秒ぐらいだ(*1)」


「さて、最大筋力を発揮するのに300ミリ秒を要するが、走るときの一歩一歩の接地や、ジャンプの踏切りは、300ミリ秒よりもずっと時間が短いことがわかると思う」


ふと疑問に思ったパタヘネが質問した。


「何で10ミリ秒で最大筋力だせないんっすか?」


フジカルは、少しニヤッとしながら嬉しそうに早口で説明がハイトーンになった。


「すごく良い質問だ!」


「2006年の論文[Nyitrai2006]では、哺乳類の筋の短縮速度は、筋肉の中での酵素の反応速度によって制限されているとしている」

「人間の場合は、ミオシンATPアーゼの活性反応が制限の要因だ!」


宇宙猫状態のパタヘネがぼやいた。


「難しすぎて意味がわからないっす」


かまわずフジカルは続ける。


「要は、筋肉が動く速度に限界があるってことだ!」


パタヘネは、わかったようなわからないような、それでいてさらに細かい話は興味がないような、そんな感想だった。


「さて、話を戻そう」


フジカルは説明を続けた。


「接地の時間が最大筋力を発揮するのにかかる時間よりも短いということは、接地している時間内に最大筋力をだせないことを意味する」

「だから、ジャンプの助走や踏切りでは、最大筋力を出せるだけの十分な時間がないんだ!」

「そうなってくると、最大筋力とまではいかずとも、それぞれ一歩一歩の短い接地時間でどれだけの力を立ち上げられるかが問題になってくる」


「そこで、トレーニングの話に戻ってくるが、この課題に対して今回のトレーニングでのアプローチは2つだ!」


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参考文献

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[Aagaard2003]

Aagaard, P. (2003). Training-induced changes in neural function. Exercise and sport sciences reviews, 31(2), 61-67.


[Zatsiorsky2020]

Zatsiorsky, V. M., Kraemer, W. J., & Fry, A. C. (2020). Science and practice of strength training. Human Kinetics.


[Nyitrai2006]

Nyitrai, M., Rossi, R., Adamek, N., Pellegrino, M. A., Bottinelli, R., & Geeves, M. A. (2006). What limits the velocity of fast-skeletal muscle contraction in mammals?. Journal of molecular biology, 355(3), 432-442.

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