第1.2話 オレのおにぎりを返せ!
せっかく日本に帰ってきて、楽しみにしていた、あの、おにぎりはどうなったのだろうか?
「俺が死んでしまったとして、まず最初に聞かなければならないことがある」
藤軽は神と名乗る幼女の姿をした存在に質問した。
「いままさに食べようとしていたおにぎりはどうなった?」
何のために日本で新しい仕事を見つけたかわかっているのか。米だよ米!そして感動のひとくちを返して欲しい。
「あー、あれか、、、すまんのう。あのとき、地面に落ちて蟻が一部を分解して巣に運んでいってしまったようじゃ。残りのおにぎりは遺体の撤去とともに捨てられたようじゃのう。」
それを聞いた藤軽は、両手で頭をかかえ、両膝が地面についた状態で悶絶と絶叫を混ぜた声を出す。
「のおおおおおおおおおおおおおおおおお!久々の日本の米がぁぁぁぁーーー。おにぎりがあああああぁぁぁーーーー」
もしかして、もう2度と日本のコンビニおにぎりが食べられないのだろうか?コンビニおにぎりだけではなく、シャケ弁当も無理か?ササニシキ、ゆめぴりか、はえぬき、あきたこまち、もう無理なのか?
悶絶する藤軽をよそに、神と名乗る金ピカな存在が続ける。
「さて、詫びの話だが、詫びとしてチートスキルを持って剣と魔法の異世界へ送らせてくれ」
「どんな能力を希望するかのう?」
こっちの事情を全然気にせずに、ぐいぐい話を進めてくるなぁ。。。ハナクソを穿って捨てるし、根本的にダメなやつに見えてきた。
そして、それと同時に、ああ、これが俗に言う異世界転生かと、おぼろげに思った。
日本アニメはゲリラ的にアメリカ国内でも広がっており、異世界転生は「get isekaied」という英語表現が生まれているぐらいだ。
藤軽の同僚にも、日本アニメ好きがいたので、何となくそういう世界観があることは知っていた。そして、テンプレ通りであればチートスキルと言われるモノには、それなりの価値があるはずだ。
いや、待て。
そもそも行って何をすれば良いのかを知らなければ、何を要求すれば良いのかもわからない。
「おれは、どうすればいいんだぁぁぁぁ!」
とりあえず困ったので叫んでみた。
「何かをしなくてはならないということは特にない。好きなことをして好きに生きてもらえればそれで良いのじゃ」
どんどん話を進めようとしているように思える。もうしょうがない。とりあえず冷静に要求しよう。これは恐らくやり直しができない瞬間だ。チートスキルをくれると言っているので、ここで何を要求するのかで、今後が大きく変わるはずだ。
「では、いままでと同じように人々の身体をサポートする仕事をしたいので、それにとって都合が良い能力を」
新しい世界に行って、おそらく何らかの仕事をする必要はあるだろう。そのときに困らないような状況があった方だ良いだろう。
「わかった。スポーツトレーナーを続けやすい能力じゃな」
「これまで使っていた機材が向こうにあるわけではないので、それを作れるような創造魔法の能力と、空間魔法、農業に適した能力も少々、色々と持ち運べるアイテムボックスの能力もつけよう」
「チートスキルの大盤振る舞い、バーゲンセール状態ぢゃ!」
気前がいいな。もらえるものはできるだけもらっておこう。
「スキルの使い方は、何となくわかるようにしておいたから、何となくわかってくれなのじゃ」
「言語理解も必要ぢゃな」
「ついでに、これから送り込む世界に関しての常識や、ダンジョンで戦う経験も最初から頭に入れておいてやろう!」
とりあえずは困らずにすみそうなスキルはもらえるらしい。
「あと、スポーツトレーナーを続けるにあたり、スポーツ科学の最新知見へアクセスしたい。新しい情報を常にアップデートしていないと困る。」
「あと、新しい本を買いたくなることもある。」
スポーツ科学は日進月歩なので、新しい情報を常に勉強し続けることが大事だ。人類は、いまだ、人体に関して科学的に解明できていない。経験も大事だが、科学的なエビデンスをもとに考察することも大事だ。新しい知見を学ぶ続けられる環境は、ぜひとも欲しい。
「うーむ。それはどうしようかのぉ。とりあえず論文と書籍を召喚できるようにすれば良いかのぉ?」
異世界に行っても論文を持って来れるのか。さすが神。
「それはありがたいが、それだけだと困る。」
「どういう論文や書籍があるのか検索したい」
検索ができないと論文を探せないので、検索できることは必須だ。これは外せない。
「うーん。わがままじゃのぉ」
ところどころ態度が悪いぞ、こいつ。誰のせいでこんなことになっていると思っているのだろうか?
「あなたがハナクソをオレが元いた世界に飛ばさなければ、俺はここにはいないわけだが」
できるなら、そのまま時間を巻き戻して戻らせて欲しい。本当に困ったことをしてくれた。
「しかたがないのぉ。論文と書籍じゃな。手に入るようなスキルをやろうかのぉ。あと検索もできるスキルを与えよう。」
できるなら、ぐだぐだ言わずにやってこれれば良いのに。なぜそこでごねた?
「ところで、書籍は買う必要があるけど、どうやってお金を払えば良いのだろうか?」
「論文も、無料公開しているものでなければ、お金を払うか、学術出版社にライセンス料を払っている組織に所属してないと読めない。」
「もう、元いた世界では俺のクレジットカードは使えないだろうし、学術出版社にライセンス料を払っている組織にも属してないのは、どうするんだ?」
神の名の下に著作権侵害の恐れがある行為になってしまうのか?という疑問が生じたので質問をしてみた。
「そこは、ワシは神じゃから、何の問題もないように適度に良い感じのアレをしておくから大丈夫ぢゃ」
これは、ぼやっと誤魔化したのか?まあ、追及してもしょうがないので、それはそれでいいか。。。
「それはよかった。」
「あと、向こうでは米は手に入るのだろうか?」
米は大事だ。何のために日本に帰る人生設計をしたと思っている!そう言いかけがた、もう諦めモードだったので、冷静に話すことにした。
「どんどん要求が増えていくのぉ」
「米は、ないわけではないが、簡単に手に入るわけでもない。自分で生産できる能力をつけてやろう」
「ってことで、ここまでぢゃ。では、そろそろ行ってもらおうかのぉ」
やっぱり、さっさと話を終わらせようとしているようにしか見えない。。。
神と名乗る幼女の姿をした存在が言うと同時に、藤軽の身体が光に包まれ、次に気がついたときには見知らぬ森の中で立っている自分に気がついた。
森の中で、次はどうしたものかと悩んでいると、近くの茂みがガサゴソと動いた。
少しドキドキしながら茂みの方を向くと、血まみれの4人組が茂みから登場した。
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