第5.3話 足首の背屈可動域テスト

ギエルハルドは、しゃがめない。しゃがもうとすると、ギエルハルドは尻餅をついてしまう。


怪我のリスクが高い動きを避けようと思っても、その動きをするための基礎的な姿勢を取ることができないのだ。では、どのような制約があり、その姿勢が取れないのか、それを分析する必要があるわけだ。


「おーけー、おーけー、次は、足首の可動域のチェックをしよう。」


エリカが質問した。


「腰が痛いのに、足首をチェックするんですか?」


エリカは質問をするときに、顔を横に傾ける癖があるように思える。顔を横に傾けるときに、髪が重力に引っ張られていることが強調されるのが特徴的だ。


「そうだ。床に置かれた重たいものを持ち上げようとするときに、腰を痛めるリスクを軽減できる持ち上げ方ができるには、深くしゃがめる必要がある。しかし、それができないことがわかった。じゃあ、何でしゃがめないかという話になるが、いまは足首の可動域の不足を疑ってるんだ」


しゃがむときに、足首の可動域が不足している場合、足首が十分に曲がらないので重心が身体の後ろ側に来てしまい、身体が支えられずに後ろに倒れてしまう場合がある。先ほど、ギエルハルドがしゃがもうとして尻餅をついたことからも、深くしゃがむことができる場所に身体の重心を納めることができないのではないかと推測できる。


「そのために、足首の背屈可動域、つまり、つま先を上にあげる方向に足首が十分動くのかをテストする」


そこに問題があるのではないかとあたりをつけたときに、次にテストを行うことで、本当にそこに問題があるのかどうかを確認することができる。


「怪我のリスクを軽減するための動きをやりたくてもできない場合も多いんだ。」

「どういう制約があって、目指す動きができないのかを分析する、そのためにテストをするんだ」


「じゃあ、足首の背屈(はいくつ)、つま先を上にあげる方向での可動域をチェックする方法だ!」


フジカルが自分の足を指差しながら、自分のつま先をチョンチョンと上下に動かしている。つま先が上にあがるときが背屈、逆に下がる方向に行くのが底屈(ていくつ)だ。


「Knee to wallテスト、壁に向かって膝を突き出すテストだ!」


このKnee to wallテストは使い勝手が良いので、非常に多くの現場で活用されている手法だ。フジカルが異世界転移する前の現場でも、よく使っていたテストのひとつである。


「まず最初に、握り拳ひとつ分離れたところにつま先が来るような位置で壁の前に立つ!」

「そして、片足を後ろに下げる!」

「その状態で、壁の近くにある側の足の裏が地面から離れないようにしながら、膝を壁に近づける!」

「前に出した足の膝が壁に触れるところまで行ければ合格!かかとが地面から離れてしまったり、膝が届かなかったら不合格!」


このテストを行うと、ギエルハルドは膝がぜんぜん前に出せないことがわかった。


「何で、みんな膝が前に出るんだよ。おかしい。。。」


ギエルハルドの膝は、つま先の真上よりも少し後ろぐらいのところで停止しており、足裏を地面から離さない状態では、それ以上壁へと近づけることができなかった。

左右の足首両方の可動域が狭いのだ。


「おーけー、おーけー、足関節、ようは足首に課題があることがわかった」

「じゃあ、次は、足関節の背屈可動域をあげるためのエキササイズだ!」


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参考文献

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[Powden2015]

Powden, C. J., Hoch, J. M., & Hoch, M. C. (2015). Reliability and minimal detectable change of the weight-bearing lunge test: A systematic review. In Manual Therapy (Vol. 20, Issue 4, pp. 524–532). Elsevier BV. https://doi.org/10.1016/j.math.2015.01.004

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