最近妹がブラコンになってきたのを気づいたが、知らないうちに兄もシスコンになっていた朝の一五分

水瀬真奈美

第1話 家を出てから〇分

「おいに、遅刻するよ」

「待て待て、まだこんなに早いから、あわてて出ることはないだろう」

朝食を食べながら新聞に目を通していた、日向蒼真に日向さくらは急かしている。

同じ高校に通う二人は、朝練のない部活に属しているため、特に早く出る必要もないのだが、さくらはうずうずして仕方がないらしい。

今日が入学初日ならわかるが、すでに二学期に突入し、秋らしい気候に入った一一月の中旬の朝である。

体育祭や学園祭も終わり中間テストの成績も返され、二学期のイベントごとは一通り終わっている。

あとは音楽祭と期末テストまで何かあるだろうか。といったぐらいで、早朝通学する意味などはどこにもない。

「いいから、いいから。この時間がちょうどいいんだってば」

「何考えているのかわからないけど、今行くからちょっと待ってろってば」

なんだかんだで妹思いの蒼真は、残りのサラダを急いでパクつくと、新聞を几帳面に四分の一サイズにまとめてテーブルに置いた。

今日のさくらには秘策があるのだ。学校の通学時間をずらすことで、大胆にも外で大好きなおにいとイチャイチャしながら通学できるのではないか、というものであった。

両親はすでに出勤しており、今でも二人だけの時間を楽しむことはできていて、幸せタイムではあるけど、いつも食器を洗ったり洗濯物を干したりと、そこまで濃密な時間を過ごせるものではなかった。

ハーフツインの髪形にぱっちりセットして、セーラー服姿にエプロンを着ているさくらは、蒼真の持ってきた皿を洗っている。

蒼真はその間にテレビを消したり、戸締りの確認をしておく。おっと、テーブルにかけてあったブレザーを忘れるところだった。

「終わったよ、おにい。学校に行こうか」

「こっちも終わったところだ」

二人はうなずき玄関へ向かった。

「あたしが先だからね」

「どっちだって一緒だろ」

「やーだよ」

全く子供のころから変わらないと思ってしまう蒼真。

「今日も良く晴れた日だね」

「あぁそうだな、雲一つないいい天気だな」

蒼真は玄関の戸締りをしながらそう答えた。

「今日もいいことありそうな予感」

「お前はいつも変わらないな」

「そうかな、結構変わっていると思うよ。身長は全然おにいに勝てないけど、ほらこことか大きくなってるでしょ」

さくらは、やたらと胸を強調して迫ってくる。

蒼真は、不意打ちにもかかわらず、ドギマギすることはせず冷静に答えた。

「脂肪の塊にすぎんな。もっと運動をしろよ」

「えー、もっとドキドキしてよ。ねーてば」

「俺が妹に、今さらドキドキしてどうするんだ」

「それはおにいのエッチとか思うけどなぁ」

「あのなぁ、俺は妹にそう思わなきゃならんのか」

最近のさくらはなんとなくだが、接触が多くなってきた感じがすると思っている蒼真。

「うん、できればっていうか、そうなってほしいなぁって思うの」

「なんだよそれ、めんどくさ」

「あぁ、待ってよおにい」

蒼真は、妹を置いスタスタと歩いて行ってしまう。

さくらも負けじと追いつく。蒼真はスマホでメッセージのやり取りをしているようだ。

「おにい、彼女とかできてないよね」

「いるように思うか」

「いなくてよろしい!」

「そんなに一人のほうがいいか」

蒼真は高校ぐらいは彼女がいて、青春を謳歌出来ればとの思いもあって、ちょっとショックだったりもする。

「だってあたしが居るからいいじゃんか。かわいい後輩と早朝デートだよ。ワクワクしてきたかな?」

「後輩には間違いないが、しょせん妹だからな。お前が妹じゃなきゃそう思うかもな」

「あっやっぱりそこか」

さくらは手で目を覆い、あちゃーとしている。

それでもめげずに絡んでくる。

「だったら後輩との恋人ごっことかしようか」

「なんだそれ?」

「学校に着くまで恋人どうしですることをするの。それでどっちがドキドキしたかで勝負するの。どうよこれ」

さくらはついにイチャイチャ作戦を実行へ移せたことで、気持ちが高ぶっていた。

「それ、誰得?」

「お互いにお得だと思うよ。大セールだよ」

「なんだよその恋愛の大セールみたいなやつは」

「セールもいいところだよ。一一月だしブラックフライデーってやつ!?」

「今日は金曜日じゃないぞ。水曜日だ」

「曜日とかなんてどうだっていいじゃん。近所のスーパーなんて三週間もブラックフライデーやってるよ」

「そうかそんなに長くやってなら、夕飯の買い出しは頼んだぞ」

「ラジャーって、なにそれ、あたしにやらせるつもり」

「了解してただろ」

「してません、ブッラジャーって言ってたんだもん。わっはははははは」

「クレヨンしんちゃんかお前は」

さくらは右手を高く上げて、アクション仮面ポーズをしている。

くだらないと思いつつも、つい笑ってしまう蒼真。

「結構似てたかな。オラ、ノハラシンノスケだぞっ。かーちゃんのお腹は三段ば~ら~」

「くっあはははははは。お前うまいな。声優とかいけるんじゃねーの。でも三段腹は親の前でやめておけよ。事実だからな」

「おにい、いい雰囲気でリアルを持ち出すのは、引くわ」

母親はリアルで三段腹なのを考えると、言った蒼真でも引けてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る